研究課題/領域番号 |
23591937
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
岩谷 岳 九州大学, 大学病院, その他 (70405801)
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研究分担者 |
田中 文明 九州大学, 大学病院, 助教 (30332836)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | がんゲノム解析 / 発現解析 |
研究概要 |
1.食道癌組織における遺伝子発現解析食道扁平上皮癌症例3例の癌部、正常部よりtotal RNAを抽出し、Whole transcriptome解析を施行した。家族性食道癌・散発性食道癌の双方の解析から食道癌原因遺伝子の存在が示唆されている500 kb領域 (Tylosis Oesophageal Cancer [TOC] locus)を含めた1500Kb領域の発現検索から、癌部で有意な発現低下を示す2つの遺伝子Envoplakin (EVPL)、ST6GALNAC1 を見出した。90例の食道癌症例におけるreal time PCRによる検証実験でも両遺伝子の癌部での有意な発現低下が確認された (ST6GALNAC1: p<0.0001, EVPL: p=0.0023)。TOC locusにおける食道癌原因候補遺伝子として過去に報告されているcytoglobin (CYGB)では、次世代シークエンサーによる解析でもqRT-PCRによる解析でも、正常食道粘膜と癌組織による発現差は認められなかった。2.候補遺伝子の解析EVPL遺伝子の変異解析は過去に施行し1/20 (5%)にミスセンス変異が生じていたことを報告している(Iwaya T et al, Oncol Rep 2005)。今回、ST6GALNAC1について詳細な解析を進めた。46例の食道癌症例につき、ST6GALNAC1の全coding regionのSanger sequenceから、14例の変異を確認した。内訳はExon 2における6例のミスセンス変異、1例のサイレント変異、Exon 3, 4境界のintron 3部位に6例の1bpのdeletionを認めた。しかし、周囲食道粘膜にも見られるものもありpolymorphismの可能性も示唆された。現在、LOH解析・メチル化解析・細胞機能解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
次世代シークエンサーを用いた網羅的遺伝子発現解析から食道癌で有意に発現低下する2つの遺伝子EVPL, ST6GALNAC1があげられ90症例のqRT-PCRによる検証でも両者が癌部で発現低下していることを明らかにした。EVPLの変異解析は過去に検討しており、今回TOC locusにより近いST6GALNAC1について変異解析を施行した。46例の食道癌genome DNAのSanger sequenceにより14例で変異が確認された。候補遺伝子の発見・変異解析については順調に進行してきたものと考えられる。また、10種の食道癌細胞株では TE9, TE10, TE15食道癌細胞のST6GALNAC1発現が比較的高く、これらの細胞株を用いsiRNAによるST6GALNAC1のknock downを施行した。いずれの細胞でもST6GALNAC1 knock down細胞でcontrolに比し72-96hrでの増殖能の増加傾向が見られた。同遺伝子が予想どおり癌抑制遺伝子として機能している可能性が示唆される。前述のST6GALNAC1変異はアミノ酸変化を伴うミスセンス変異やdeletionであるにもかかわらず、多くが同一症例の周囲食道粘膜でも確認された。ST6GALNAC1変異が(1)食道腫瘍発生の非常に早期の段階で生じている可能性や、(2)食道癌発生に関与するpolymorphismの可能性、(3)特に食道癌発生には関与するものではなく変異以外の機序で発現抑制が起こっている、という3つの可能性を考え、研究を進行中である。
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今後の研究の推進方策 |
ST6GALNAC1の不活化機序の解明:(1)研究背景として家族性食道癌 (Tylosis)の連鎖解析から原因遺伝子が存在すると予測される17q25.1領域で高頻度にLOH (loss of heterozygosity)が認めらることから研究を開始している。これまでの研究では17番染色体長腕上のmarkerを用い大まかにLOH検索がされている。ST6GALNAC1領域での染色体欠失の有無を検証する。同遺伝子上にはD17S2238, D17S2243, D17S2245の3つのmicrosatellite markerが存在する。これらの領域におけるLOHの解析を施行する(現在PCR条件検討中)(2)遺伝子変異以外のST6GALNAC1の不活化機序として高メチル化による不活化が考えられる。ST6GALNAC1遺伝子のpromoter領域にCpG部位は存在しないものの同遺伝子のメチル化に関し興味深い報告が存在する。乳癌症例におけるgenome wide methylation assayにより、ER, PgR陽性乳癌ではST6GALNAC1のメチル化による有意な発現低下が認められ、メチル化の標的となる部位は転写開始点2bp上流に存在するGC配列であるというものである(Hum Mol Genet, 2010)。予備実験にて、食道癌培養細胞4株 (TE1, TE8, TE9, KYSE150)を用い5-Aza-dC処理によるST6GALNAC1発現変化を検討した。いずれの細胞でもST6GALNAC1発現の上昇が認められた。細胞株・臨床検体におけるメチル化解析を施行予定である。ST6GALNAC1の機能解析:ST6GALNAC1のknock down, overexpressionによる増殖能変化の確認を含め、どのように食道癌発生・進展に関与するかを検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
1) PCR-microsatellite-LOH解析:Sanger sequenceを施行した46症例のゲノムDNAを用い染色体欠失の有無を確認する。必要機器は現有しており、Primer他PCR, 泳動などフラグメント解析に要する消耗品などに使用する。2)メチル化解析:ST6GALNAC1のメチル化解析は食道癌培養細胞株・臨床検体を用いたBislufite sequence法により施行する予定である。ビスルファイト処理、PCR、TA cloning、Sequenceにかかる経費が必要となる。3) ST6GALNAC1の機能解析:siRNAによるST6GALNAC1のknock downは一か所のsiRNAのみでの確認であるため、今後2~3か所のsiRNAを作成し検証する。またST6GALNAC1過剰発現株の作成も平行して行う。これらのST6GALNAC1発現を変動させた細胞とcontrol細胞との網羅的発現比較(マイクロアレイ解析または次世代シークエンサーを用いたwhole transcriptome解析)を施行し、食道癌細胞・食道組織でST6GALNAC1が標的とする下流遺伝子・pathwayを同定する。細胞実験関連試薬、発現解析に用いる試薬などに研究費を使用する予定である。また機能解析の中ではST6GALNAC1抗体を用いた蛋白発現の変化についても検討する。ST6GALNAC1抗体 (Sigama-Aldrich社)の使用条件を現在検討中である。この抗体を用い食道癌細胞、食道癌組織・正常粘膜における蛋白発現変化をWestern Blotting, 免疫染色にて検討する。抗体、Western blotting, 免疫染色にかかる消耗品などに研究費を使用予定である。
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