研究課題
本邦における死亡の第一原因は癌であり、約半数の日本人がこれに罹患している。そのなかでも、消化器固形癌はその頻度が高く、死亡者数としても常に上位を占める疾患である。しかも、手術適応とならない進行癌の場合や、あるいは化学療法が無効になった症例では、有用な治療手段がなく、ベストサポーティブケア(緩和ケア)に移行せざるを得ないのが現状である。そこで本研究では、従来の治療法とは全く異なる概念で、アデノウイルスの増殖による細胞死を利用した、新規治療法の開発を目的とする。増殖性ウイルスによる細胞傷害活性は、従来の抗癌剤や放射線治療ともその作用機序が異なると推定されるため、このようなウイルス製剤は化学療法等との併用も可能であり、そのため当該遺伝子医薬は、治療法の選択肢を拡大させる一方で、現行の治療に抵抗性を示す症例に対しても一定の治療効果を有することが期待される。当該研究では、腫瘍に対して特異的なアデノウイルスの増殖を誘導することを、外来性の転写調節領域を用いて実現させ、しかもウイルス受容体結合部位(ファイバー・ノブ領域)を従来のCAR分子よりCD46分子へと改変し、腫瘍への感染効率を改善した。この結果、CAR分子発現の低下していたヒト食道癌における、アデノウイルスの感染効率は上昇し、その結果当該ウイルスによる細胞傷害活性は向上した。しかし、もともとCAR分子の発現が高い細胞では、受容体結合部位の置換による、細胞傷害活性の向上はなかった。このウイルス感染細胞の細胞周期を検討すると、まずG2/M期が上昇し、G2/M期よりもプロピディムアイオダイド染色が強いhyperploidy分画のちにsubG1分画が上昇していた。この細胞傷害活性の経路を検討すると、アポトーシスであり、オートファジーの関与はないと考えられた。
2: おおむね順調に進展している
腫瘍に特異性を有して増殖するウイルスが作製でき、それを用いた細胞傷害活性が検討できている。またその細胞傷害活性と、ウイルス受容体の改変との関係を明らかにしており、本年度の目標はほぼ達成できている。さらに、細胞死について、ウエスタンブトット法による解析を実施し、カスペースの活性化等によるアポトーシスであることを見出している。このようなウイルス増殖による細胞死はオートファジーによるものと報告されているが、本研究ではオートファジーの関与は否定的である。
増殖型ウイルスの抗腫瘍効果の増強について、さらに検討するために、タイプ5型ウイルスでp53遺伝子を発現するベクターを作製し、ファイバー・ノブ領域改変型の増殖制限型ウイルスとの併用効果を検討する。食道癌細胞の約半数はp53遺伝子が変異をしており、p53蛋白の発現によって細胞死が起こることがすでに確認されている。この時、2種類のウイルスが同じ細胞に感染するが、相互の受容体分子が異なるため、感染効率の干渉は起こらないと推定される。この併用効果は、各種食道癌細胞を対象にWST法、トリパンブルー法で検討する。またその細胞傷害活性につき細胞周期の変化、ウエスタンブロット法による細胞死関連蛋白の発現を検討する。また、抗腫瘍効果についてヌードマウスを用いた動物実験でも確認する。
増殖制限型ウイルスの作製とその細胞傷害活性の解析が順調に進行したため、当該作製費用に余裕が生じた。そのため、p53を発現するウイルスの作製にその費用の一部使用し、当該ウイルスとの併用効果について検討する。また、ウイルスの精製等に必要なキットをはじめ、分子生物関連の試薬、細胞培養系を用いた細胞死の検討として細胞培養関係の物品、各種蛋白質発現のために抗体等の一般生化学試薬等、ウエスタンブロット関連試薬、また動物実験用のマウス、などの物品購入等に使用する。
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