研究実績の概要 |
従来,癌腹膜転移に対しては可及的な腹膜切除が行われてきた.しかし,腸管などを大量に切除することによる臓器欠損障害がQOLを著しく損なう.本研究では,5- Amino Levulinic Acid(ALA)を腹腔内投与して播種巣に取り込ませ,光励起により播種巣を発光させることで,必要な切除が行える可能性について,また,切除困難な部位はレーザー高照度による光線力学療法(PDT)について実験的研究を行った. マウス腹膜播種モデルを作成し,腫瘍集積性があり代謝を経て蛍光物質であるProtoporphyrin Ⅸ( Pp )に変化する5-AminoLevulinicAcid(ALA)を腹腔内投与して播種巣に取り込ませ,光励起により播種巣内のPpを発光させることで腹膜転移の部位を明らかにすることができた.また,広範に広がった切除困難な播種部位はレーザー照度による光線力学療法も試みた.培養細胞系では,波長630nmの赤色光照射で細胞死を確認したが,複雑な腹腔内全体をレーザー照射することは困難であった.そこで,腹腔内に希釈した脂肪乳剤を注入しレーザー光を乱反射させて腹腔内全般にPDTを行う実験を行った. 動物事件で腹腔内照射モデルを作成した.脂肪乳剤5%の高濃度でも腹膜に与える損傷は認めなかった.体外での照射実験では,生食に0.2%の脂肪乳剤が最も効率的に赤色光を乱反射させることが判ったが,同じ630nm光でもLEDの方が効率的に反射することが判った. 培養細胞における脂肪乳剤添加培地での間接照射実験では,臨床的に用いられるレベルの光照射でがん細胞の増殖抑制が認められたが完全な殺細胞には至らなかった. 今後,脂肪乳剤の油滴のサイズを調整することと,腹腔内に複数のLED光源を光ファイバーで導入することでより効率的に腹腔内全体の治療が可能になるものと推測される.
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