研究概要 |
FRはアステラス製薬からサンプル提供を受け、ヒト大腸癌(HCT116,DLD1,COLO320)、マウス大腸癌(CT26,MC38)に対する抗癌作用をTSAと共に細胞培養で検討した。またHCT116,CT26においてSV40, TK, CMV, h-PGK, h-Midkine, h-TERTのプロモーターで制御されるルシフェラーゼ発現プラスミドを遺伝子導入してFR、TSAによる遺伝子発現への影響を検討した。その結果は平成23年10月に開催された第70回日本癌学会で報告した。その後対象とする大腸癌細胞株を増やすと共に、FR耐性細胞をクローニングして細胞障害活性、遺伝子導入発現に対する影響を検討し、その結果は平成24年9月に開催される予定の第71回日本癌学会で報告する予定である。導入遺伝子発現に対するFRの影響はせいぜい2倍程度であり、条件によっては10倍近くになるTSAに比べて小さかった。また遺伝子発現増強効果がTSAの場合はプロモーターに因らないのに比べ、FRはSV40でしか見られずTKではむしろ抑制効果を示した。またFR耐性細胞においては増殖速度が遅くなっており今後フローサイトメトリーを用いた解析も行う予定である。更に最近の報告で血液疾患(骨髄異形成症候群、急性リンパ性白血病)においてSF3bに遺伝子変異が多いことが報告され疾患の予後との関係も示唆された。耐性細胞を含む大腸癌細胞株、大腸癌患者においてSF3bに遺伝子変異があるかの検討を開始している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでSF3bに関する論文は非常に少なく、基礎的な論文ばかりであり本科研申請時にも悪性疾患との関連を報告したものは無かった。しかし昨年秋にSF3bが血液悪性疾患において重要な役割を果たしていることを示唆する論文が、New England Journal of medicine に2報、Nature, Nature Genetics, Bloodに各1報と有力誌に相次いで発表された。血液疾患では遺伝子変異の場所に明確なホットスポットがあり、固形がんでは同じ部位には数パーセントではあるが遺伝子変異があることが示された。一方でFRとは違うSF3b阻害剤を用いた研究で薬剤耐性大腸癌細胞においてはSF3bに変異があることが示されたが、その変異部位は血液疾患でのホットスポットとは異なるエクソンであった。従って大腸癌においてのSF3bの遺伝子変異は報告されている以上はあることが予想され、大腸癌とSF3b遺伝子変異の関係が非常に注目される。従ってSF3bをターゲットとするFRはこれらの悪性疾患に対する新しい分子標的治療薬となることが期待出来る。そしてSF3bにおける遺伝変異の有無、遺伝子変異の場所とFRに対する感受性が関係していることが予想され、効果が予測できる分子標的治療薬の可能性が高い。従って当初の実験計画の他にこれらのSF3b遺伝子変異に関する実験を行い、この分野の更なる発展を図ることが非常に重要と考えている。FRを含めSF3b阻害剤は日本で開発された薬剤であり、日本発の新薬としての可能性を秘めている。
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