研究課題/領域番号 |
23591975
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研究機関 | 兵庫医科大学 |
研究代表者 |
冨田 尚裕 兵庫医科大学, 医学部, 教授 (00252643)
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研究分担者 |
山野 智基 兵庫医科大学, 医学部, 助教 (00599318)
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キーワード | スプライシング |
研究概要 |
SF3B1遺伝子変異が血液悪性疾患において、その発生・進展に非常に重要であることが2011年秋から数多く報告された。これまではSF3B1はスプライシングにおける役割に関する報告のみで、実際の疾患との関連は不明であった。 そこで大腸癌におけるSF3B1遺伝子変異を大腸癌細胞株15株(スプライシング因子阻害剤FR901464耐性の耐性細胞6株を含む)、大腸癌患者80例において遺伝子変異を調べた。その結果、大腸癌細胞株ではFR901464耐性細胞を除くと1種類のみで遺伝子変異が見つかったが、大腸癌細胞株では遺伝子変異が見つからなかった。またFR901464耐性細胞6株全てにおいて共通のコドン1074に変異が見られた。これらの結果とFR901464が大腸癌細胞株においてin vitroの実験では非常に強い抗がん作用を有すること(IC50が1ng/ml未満)、耐性細胞は他の抗がん剤オキサリプラチンや5-FUには感受性があり耐性にはなっていないことを含めて2013年度米国癌学会(AACR)で報告し、論文投稿準備中である。また2013年度の日本癌学会でも発表予定となっている。その他ではFR901464が時間依存性の薬剤であり1時間の薬剤培養投与でも抗がん作用を有し、3~6時間の薬剤投与時間で96時間投与した場合に近い抗がん作用を示すことも確認している。FR901464の細胞周期への影響も確認しており、大腸がん細胞ではG2/M arrestを起こすこと、耐性細胞では細胞周期に影響は無いことが分かっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
SF3B1遺伝子変異の癌における重要性については、当初の計画では予想していなかった。SF3B1はスプライシングに関係する蛋白であり、スプライシングは生命現象に不可欠であるため、その遺伝子変異は致死的な結果を起こすと考えられていた。しかしながらこれまでの研究で大腸癌においては血液疾患と異なり、一般の大腸癌ではSF3B1遺伝子変異が認められなかったものの、DLD1細胞では遺伝子変異、それも終止コドンへの変異が起こっていた。またLoVo細胞のFR901464耐性細胞でも終止コドンへの変異が認められた。従ってSF3B1の機能低下は代替可能であることが示された。 SF3B1のコドン1074に遺伝子変異が無ければSF3B1阻害剤FR901464に対して感受性があることが示唆されるが、これは他のSF3B1阻害剤プラジエノライドと同様の結果である(変異塩基自体は異なる)。これは全く構造の異なる2つの化合物がSF3B1の共通の部位を認識していることを示しており、またこのコドン1074がSF3B1の立体構造において重要な部位であることを示し今後の研究の発展が期待できる。また今後SF3B1阻害剤が抗がん剤として有効であることが示されて、ヒトへの応用が可能となった場合にはコドン1074の遺伝子変異の有無で薬剤投与の適否を決定できることになる。 以上の結果からSF3B1研究において重要な結果をこれまでに示すことが出来ており、予想以上に研究が進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2012年秋にこれまでの結果を論文投稿した。ところがin vivoのデータが示されておらず、データが不十分であると不採用となった。そのためマウスヒト大腸癌皮下腫瘍モデルでのFR901464の抗腫瘍効果の検討が急務と考えており、現在HCT116, HCT116/FR1(HCT116由来のFR901464耐性細胞株), RKOの皮下腫瘍モデルにおいてFR901464の抗腫瘍効果を検討中である。 またSF3B1がスプライシング因子として作用しているだけなく、がん遺伝子であるc-myc(最近の論文)、アポトーシス関連蛋白であるBcl-xLとも結合している(AACRでの発表)との報告があり、がん関連因子に直接影響を与えている可能性が示唆されている。我々の研究でもFR901464は時間依存性の強い薬剤であり、1時間作用させただけでも抗がん作用を示し3~6時間作用させると96時間作用させた場合に近い抗がん作用を示すことを確認している。これはFR901464が癌の生存に関わる蛋白に短時間で結合し、細胞死に至ることを示している。そこで大腸がん細胞株とそのFR901464耐性細胞のFR901464投与に対する遺伝子発現の差異を調べることでFR901464の抗がん作用のメカニズムだけでなく、SF3B1に直接関与している因子の解析もできるのではないかと考えており、今後網羅的遺伝子解析(マイクロアレイ解析など)が有力な手段となると考え準備している。
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次年度の研究費の使用計画 |
1. 動物実験 論文投稿時に指摘された実際の腫瘍におけるFR901464の効果を検討する。ヒト大腸癌細胞株であるHCT116, HCT116/FR1(HCT116由来のFR901464耐性細胞株), RKOのマウス皮下腫瘍モデルにおいてFR901464を投与してその抗腫瘍効果を検討する。HCT116,RKO由来の皮下腫瘍モデルにおいてはFR901464の腫瘍増殖抑制効果を検討出来る。HCT/FR1由来の皮下腫瘍モデルではFR901464が腫瘍増殖を抑制しないこと、アミノ酸変異を伴うSF3B1遺伝子変異があっても腫瘍増殖には影響を与えないことを検討できる。 2.マイクロアレイ解析 HCT116, HCT116/FR1, DLD1, DLD1/FR1においてFR901464投与における遺伝子変化をマイクロアレイ解析を用いて解析する。FR901464投与の有無でHCT116,DLD1では変化が見られるが耐性細胞であるHCT/FR1とDLD/FR1では変化が見られない遺伝子がFR901464のSF3B1以外の標的遺伝子と考えられる。 上記が今年度研究費の主な使用用途になる予定であるが、それ以外にFR901464によるアポトーシス作用の検討、大腸癌患者におけるSF3B1遺伝子変異の解析にも使用する予定である。
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