研究課題/領域番号 |
23591977
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研究機関 | 公益財団法人がん研究会 |
研究代表者 |
瀧 景子 公益財団法人がん研究会, 有明病院 遺伝子診療センター, 研究員 (50332284)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | MUTYH / FAP / 大腸ポリポーシス / 多発大腸癌 / 家族性大腸腺腫症 / MYH / ミスマッチ修復 / 大腸癌 |
研究概要 |
大腸多発ポリポーシス症例について、タンパク質コーディングエクソン内及びエクソン・イントロン境界のダイレクトシーケンスでAPC遺伝子内に病的変異が同定できない症例について、常染色体劣性型の大腸ポリポーシスの原因遺伝子とされるMUTYH遺伝子へのダイレクトシーケンス解析を行った。16例の検討を終え、引き続き3例のシークエンス解析を進行中である。このうち3例にIVS12-2A>G(NCBI NM_001128425.1による表記。国際家族性消化器癌学会(InSIGHT)表記IVS10-2A>Gに相当)の変異が片アレルに認められた。日本人の一般大腸癌を対象とした報告(Tao et al.,Cancer Sci.99:355-360,2008)と比較すると、解析数は少ないが本研究対象の多発ポリポーシス症例には3~4倍近い頻度で同定された。この3例は、発症年齢は32歳・59歳・72歳、家族歴は無・兄及び母に大腸ポリープ・兄大腸ポリープ、大腸ポリープ数はともに100個以下、胃ポリープは胃底腺ポリープ・無・過形成ポリープ、十二指腸乳頭部腺腫はいずれも無し、他の癌既往歴は両側卵巣癌+子宮内膜癌・大腸同時7発癌・進行胃癌であった。この変異を導入した培養細胞では、異常なスプライシングの結果、核移行ドメインのあるカルボキシル末端側を欠失したMUTYHタンパク質が産生されることは既に明らかになっている(Tao et al.,Carcinogenesis 25:1859-1866,2004)が、MUTYHはホモザイゴートで大腸癌のリスクがあるとされていることから、へテロザイゴートにおける病的意義については更なる解析を要する。IVS12-2A>Gのヘテロザイゴートは、残る正常アレルにメチル化による発現抑制やLOHなど、ダイレクトシーケンスでは同定できない欠失の有無を検討する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の計画は、1)家族性大腸腺腫症(FAP)の臨床所見を呈しながら、APC遺伝子変異が見られない症例の集積を行いつつ、平行して、既に集積した検体から、PCR-直接シークエンス法にてMUTYH遺伝子の変異の有無を探索する。2)直接シークエンス法で変異の検出ができない、エクソンレベルの遺伝子再編成の有無を調べる方法を確立する、というものであった。1)については、国際家族性消化器癌学会(InSIGHT)で採用しているMUTYH遺伝子情報に沿って16個のエクソン内とエクソン・イントロン境界について配列解析をすでに16症例を終え、17、18、19症例目に着手している。また、2)については、DNAフラグメントの定量解析を応用したMLPA法を導入し、APC遺伝子とMUTYH遺伝子のエクソン単位の重複や欠失の検出系の整備を終えた。さらに、全長型として認識されているMUTYHは、ミトコンドリア局在を示すことが示されているが、この全長型より短い核局在型バリアントにのみ存在するエクソンがあることが知られている。この第1エクソン下流に位置する1β及び1γと呼ばれるエクソンについても、その配列をUCSCゲノムブラウザーホームページより入手し、患者の遺伝子とのダイレクトシーケンスによる比較を進める必要があると考え、解析に着手した。これは、核局在型バリアントが5’非翻訳領域としてコードしているエクソンである。このように、今年度の目標であるダイレクトシーケンス法による変異の検出は順調に進んでおり、ダイレクトシーケンス法では検出できないエクソン単位の重複・欠失の解析法の整備を終えたことから、到達度をおおむね順調とした。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度に引き続き、家族性大腸腺腫症(FAP)を疑う多発性大腸ポリープ症例を対象に、APC 遺伝子に病的変異が同定できない症例を集積する。それらについて、PCR-直接シークエンス法を用いたMUTYH 遺伝子の変異の有無の同定を続けるとともに、平成23年度に検出可能にしたエクソン単位の遺伝子再編成について、実際の検討を進め、特にヘテロザイゴートとして検出されたゲノム変異を持つ症例の、残されたアリルの欠失の有無を調べることにより、MUTYHによるポリポーシスであるかどうかを検討する。それでも、残されたアリルの変異が検出されない場合、さらに本年度からは、MUTYH遺伝子のメチル化による発現抑制についても検出法を確立し、これまで検討されてこなかったエピゲノム情報が多発ポリープ等に与える影響についても検討を加える。MUTYH遺伝子のメチル化による発現抑制を調べるには、まず最初の段階として、MUTYH遺伝子のプロモーター部位をサーベイし、メチル化に関与し得る領域候補を抽出する。次にその候補領域を増幅可能なプライマーをそれぞれ作成し、バイサルファイト変換したメチル化コントロールDNA等を利用して、メチル化DNAが非メチル化鋳型と同等に増幅できるPCR条件を、各領域毎に検討して決定する。それらの増幅産物をパイロシーケンサーを用いて定量する。凍結大腸検体が入手できる症例から、上記メチル化候補領域のメチル化について検討を加える。 また、平成23年度に検出されたMUTYH遺伝子の多型について、罹患性との関連を議論するためには、正常検体での頻度解析が必要である。ボランティアによる正常検体の収集を開始するとともに、特定のSNPの多検体における頻度解析方法の検討を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度に引き続き、家族性大腸腺腫症(FAP)を疑う多発性大腸ポリープ症例の末梢血検体からDNAを抽出する試薬、PCR-ダイレクトシーケンス法で用いるPCRとシーケンス試薬、フラグメント定量解析用試薬、メチル化解析用試薬などの消耗品に約125万円を計上する。特に、メチル化解析は次年度に解析系を構築するため、試行錯誤に費用を要する。また、平成23年度に配列決定した患者検体で検出された病的意義が不明のSNPについて、正常集団での頻度を解析するために、コストや時間を考慮に入れた多検体での検出方法について、マルチプレックスPCR法などの試行錯誤を開始したいと考えている。さらに、正常検体の収集速度にも依存するが、それらの末梢血検体の運搬とDNA抽出についても、20万円程度を見込んでいる。データ収集が進行してきた時期にあわせて、SNP解析、メチル化解析、MLPA解析などに使用するための解析用コンピューターに50万円とOS、解析ソフトウエアに計60万円程度を計画している。また、次年度は分子生物学会、家族性腫瘍学会などの学会発表旅費10万円と外国語論文発表の際の校閲、投稿、印刷費に15万円を計上し、成果発表を行う。さらに、共同実施者にはなっていないが、実験技術や経験を有する他施設への技術研修などの出張が必要な場合を想定している。また、特に重要な症例で家族の協力も得られるような特別なケースが出た場合には、倫理審査を経てSNPアレイなどの受託解析を行う場合も想定している。
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