研究課題/領域番号 |
23591977
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
瀧 景子 東京工業大学, 資源化学研究所, 産学官連携研究員 (50332284)
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キーワード | MUTYH / FAP / 大腸ポリポーシス / 多発大腸癌 / 家族性大腸腺腫症 / MYH / ミスマッチ修復 / 大腸癌 |
研究概要 |
繰り返しポリープが発生する、多発ポリープ症例は、遺伝的因子の関与が強く疑われる。臨床の現場では、腺腫性の多発ポリープの場合、APC遺伝子の変異を疑い、遺伝カウンセリング下で解析を実施するが、変異を同定できない症例が約30%存在する。欧米では、APC遺伝子のほかに、MUTYH遺伝子の大腸発癌への影響が明らかになってきている。そこで、タンパク質コーディングエクソン内及びエクソン・イントロン境界のダイレクトシーケンスで、APC遺伝子内に病的変異が同定できない症例についてMUTYH遺伝子の解析を実施した。国際家族性消化器癌学会(InSIGHT)で採用しているMUTYH遺伝子情報に沿って16個のエクソン内とエクソン・イントロン境界についてのダイレクトシーケンス解析、およびDNAフラグメントの定量解析を応用したMLPA法にて、エクソン単位の重複や欠失の有無を解析した。その結果16例中3例にIVS12-2A>G(NCBI NM_001128425.1による表記。国際家族性消化器癌学会(InSIGHT)表記IVS10-2A>Gに相当)の変異が片アリルに認められた。このGアリルは、培養細胞系では異常なスプライシングの結果、カルボキシ末端側を欠失したMUTYHタンパク質が産生されることが明らかになっている(Tao et al.,2004)にも関わらず、日本人の一般大腸癌を対象とした報告(Tao et al.,Cancer Sci.99:355-360,2008)では、大腸癌罹患群でA/G+G/Gアリルは685例中23例(3.4%)、コントロール群778例中37例(4.8%)と報告されており、大腸発癌への関与が依然として不明であった。そこで、70歳以上で癌既往歴のないボランティア検体において、このアリルの出現頻度の解析を実施中であり、67名の解析を終えた現在、3名にA/Gアリルを検出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年から着手している、高齢で癌既往歴のないコントロール群について、MUTYH遺伝子のIVS12-2A>G変異の有無を調べる計画であった。ボランティア検体の収集については、今年度で終了し、123名の血液検体からのDNA抽出を終えた。DNA抽出ができなかったものや年齢などの条件が合致しなかった症例を除くと、115名(平均年齢86.5才:90-99才44名、80-89才50名、70-79才21名)のDNA抽出と、67名の解析を行った。IVS12-2 A>G変異は、現時点で解析を終えた67名中には、3名にA/Gへテロザイゴートとして存在した。次年度は引き続き残りの解析を行い、アリルの出現頻度を集計する。 MUTYH遺伝子は劣性の遺伝形式をとるとされているため、IVS12-2A>G変異が検出されている3症例について、残りの正常アリルについても、追加の変異の有無について解析を進めた。MLPA法による解析では、エクソンレベルの大規模な欠失や重複は検出できなかった。昨年から進めていた、MUTYH遺伝子のCpGアイランドのメチル化修飾については、今年度はパイロシーケンス法による解析を実施した。しかしながら、今のところメチル化修飾は検出されていないため、MUTYHの両アリル不活性化によるポリポーシス発生の可能性は、依然として不明である。 今年度は、研究拠点が移ったことによる若干の研究の遅れにより、1年の研究期間延長を申請したため、「やや遅れている」とした。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、引き続き、家族性大腸腺腫症(FAP)を疑う多発性大腸ポリープ症例を対象に、APC 遺伝子に病的変異が同定できない症例があれば、解析に加える。それらについて、PCR-直接シークエンス法を用いたMUTYH 遺伝子の変異の有無の同定と、平成23年度に検出可能にしたエクソン単位の遺伝子再編成についての解析を行い、MUTYHによるポリポーシスであるかどうかを検討する。 既にIVS12-2A>G変異が検出されている3症例については、連携研究者である臨床遺伝指導医より該当症例の患者に説明を行い、協力が得られる場合には、培養細胞系で明らかにされている、異常なスプライシングを受けた産物が、臨床検体において検出できるかどうかについて検討を加える。 70歳以上で癌既往歴のないコントロール検体の解析については、引き続き末梢血液検体において、IVS12-2A>G変異が存在するかどうかについて、PCR-ダイレクトシーケンスにより解析することで、この欠失タンパク質を産生する変異が、実際の発癌リスクに関与しているかどうかについて検討を行う。 今年度は、これまで蓄積してきた、繰り返しポリープが発生する多発ポリープ症例におけるAPC遺伝子に病的変異が検出されない頻度と、MUTYH遺伝子変異の状況、および、70歳以上で癌既往歴のないコントロール検体におけるMUTYH遺伝子IVS12-2A>G変異の出現頻度について、包括的な検討を加え、成果をまとめる。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究拠点の移動により、研究進捗が遅れたため、次年度使用額が生じた。 家族性大腸腺腫症(FAP)を疑う多発性大腸ポリープ症例が出た場合は、収集し、解析に加えるため、その解析費用と、メチル化解析については、検出部位の追加を含め、これまで収集した検体に対して実施するため、試薬類に10万円程度を見込んでいる。正常検体の解析については、 PCR-ダイレクトシーケンス法で用いるPCRとシーケンス試薬などの解析試薬やプライマー費用を計上する。最終年度ではあるが、研究拠点が移ったことによる若干の器機購入(PCR 40万円程度)を予定している。打ち合わせ等にかかる費用と、データ解析にかかる人件費も必要である。成果をまとめるにあたり、文献複写費用、外国語論文の校正費用、投稿費用に15万円程度を予定している。日本家族性腫瘍学会(福島)での情報収集と研究打ち合わせも行う予定であり、その費用6万円を計上する。
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