研究課題
近年、バルプロ酸ナトリウム(VPA) などのヒストン・デイ・アセチラーゼ (HDAC) 阻害薬やタキサン系抗癌剤の少量投与が細胞の上皮間葉転換 (EMT: Epithelial to mesenchymal transition) を抑制することが注目されているが、これらの薬剤は細胞のEMTを抑制するとともに組織の線維化も抑制することが知られている。ラットにおける実験ではHDAC 阻害薬により肝星細胞の活性を抑制する可能性があることが論じられており、これらの薬剤により肝の線維化が抑制あるいは遅延出来れば肝炎患者の予後を改善するとともに発癌を抑制できる可能性があると考えられる。HDAC 阻害薬 やタキサン系抗癌剤の少量投与は肝星細胞のEMTを抑制することで肝の線維化を抑制する効果に加えてRFA、化学療法、放射線療法や動脈塞栓術による低酸素状態などの抗癌治療により誘発される腫瘍のEMTを抑制することで転移や再発を抑制する効果を併せ持つ可能性があるため、慢性肝炎を基礎疾患として有する肝細胞癌患者に対する抗癌治療の効果を最大限に引き出し、予後を改善する可能性がある。研究初年度である平成23年度はHDAC阻害剤であるVPAを用いて肝星細胞の活性化を抑制する研究を行い、学会で発表するとともに論文発表も行った。このほか、タキサン系抗癌剤であるpaclitaxelを用いて胆管細胞癌細胞株におけるEMT誘導を抑制する実験を行った。さらに、術前化学療法が行われた膵癌においてstem cell markerであるCD44がよく発現していることを免疫組織化学的に検証し、論文発表した (in press)。
2: おおむね順調に進展している
肝星細胞のTGF‐βによる活性化をバルプロ酸ナトリウムにより抑制できることを論文発表することができ、paclitaxelによる胆管細胞癌におけるEMT誘導も抑制できることが結果として得られている。
平成24年度は昨年度の研究を学会発表、論文発表するとともに、肝癌や膵癌において抗癌剤によるEMTの誘導を検討し、それがpaclitaxelによって抑制できるか否かを検討するとともに、抗癌治療抵抗性を有する細胞株を樹立することを試みる予定である。
次年度の研究費使用については計画の変更はない。
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