研究課題/領域番号 |
23591999
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研究機関 | 大阪医科大学 |
研究代表者 |
林 道廣 大阪医科大学, 医学部, 講師 (90314179)
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研究分担者 |
高井 真司 大阪医科大学, 医学部, 准教授 (80288703)
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キーワード | キマーゼ |
研究概要 |
「研究の目的」は、キマーゼと非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の脂肪肝および肝線維化との関連性を明らかにし、キマーゼ阻害薬のNASHの進行予防効果または治療効果を検討する事であった。 24年度迄にメチオニン-コリン欠乏(MCD)食負荷NASHモデルをハムスターで作製、MCD食負荷後経時的に①血中AST・ALT値の増加、②肝の脂肪滴の増加、③肝の線維化面積の増加、④肝のMDA値、コラーゲンI・III、アンジオテンシンII(AII)の増加、⑤肝のキマーゼ活性の増加を確認、キマーゼとNASHの病態進行との関連性を示した。 24年度は、経時的に肝のキマーゼ活性とNASH病態の進行が相関する事を踏まえ、キマーゼ阻害薬によるNASHの進行予防又は治療効果を解析。MCD食を12週負荷しNASHモデルを作製。その時点で一部の動物を解析。残りのNASHモデルにはキマーゼ阻害薬またはプラセボを投与、さらにMCD食負荷を12週継続し、NASHの病態進行に対するキマーゼ阻害薬の影響を解析。MCD食負荷後12週の時点で、①血中のAST・ALT値、②肝の脂肪滴面積、③線維化面積、④肝のMDA値、コラーゲンI・III、AII、⑤肝のキマーゼ活性、の全項目が増加していた事より、NASHモデルの再現性が確認された。MCD食負荷後24週(薬物投与後12週)の時点で、プラセボ群では、12週の時点に比して、上記①から⑤の項目全てで更に増加したが、阻害薬投与群では、①から⑤の全ての項目が、プラセボ群に比して有意に減少した。また、阻害薬群は、投薬前のMCD食負荷後12週の時点における①から⑤の全ての項目を有意に減少させていた事より、阻害薬によるNASHの治療効果が示唆された。本成果は、第63回米国肝臓学会議(平成24年11月、米、ボストン)にて発表、又Hepatology Researchに受理され印刷中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「23、24年度の実施計画」は、メチオニン-コリン欠乏食(MCD)誘発性NASHモデルをハムスターで作製し、経時的に血液および肝臓組織の脂肪沈着ならびに線維化の変化とキマーゼとの関連性を明らかにすること(23年度)、MCD食負荷NASHモデルに対するキマーゼ阻害薬の影響を解析すること(24年度)であった。 概要に記載したとおり、MCD食負荷12週の時点で、血中の肝機能マーカーであるASTとALTが共に上昇し、肝臓組織中の脂肪滴および肝臓線維化が確認できた。また、肝臓組織中の線維化の指標であるコラーゲンI、コラーゲンIIIが増加し、肝臓の酸化ストレスの指標であるMDA値も有意に増加した。さらにMCD食負荷後24週まで解析したが、上記項目がMCD食負荷後12週の時点よりも有意に増加し、この間、キマーゼ活性およびアンジオテンシン(A)IIも増加した。これらの結果より、キマーゼとNASHの病態進行との関連性が示唆された(23年度)。 MCD食負荷後12週よりキマーゼ阻害薬を投与することにより、血中のAST、ALT、肝臓組織中の脂肪滴面積と線維化面積、線維化マーカー、酸化ストレスマーカーが全て減少し、肝臓組織中のAIIのプラセボ群に対する減少も確認された。これらのことより、キマーゼ阻害薬によるNASHの治療効果が示された(24年度)。 これらの研究成果の一部は、2012年11月、米国肝臓学会会議(米国、ボストン)にて発表し、その後、Hepatology Researchに受理され、現在、印刷中である。 今年度の目的に対する達成度は、ほぼ100%で、最終目的に対する現在までの達成度は、約80%である。
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今後の研究の推進方策 |
23年度、24年度以降は、NASHの病態発症に深く関与する炎症とキマーゼとの関連性をより明確にし、キマーゼのNASHにおける病態生理学的役割を鮮明にしたいと考えている。本研究計画の最終目標であったキマーゼ阻害薬による治療効果は確認されたが、その機序に関しては不明な点が残った。キマーゼ活性の亢進は、アンジオテンシン(A)IIを増加させて線維化形成を促進することより、キマーゼ阻害薬の機序としては、AII産生の減少を介してNASHの線維化進行を抑制すると考えた。予想通り、キマーゼ阻害薬は、NASHモデルの肝臓中AII濃度を有意に下げ、線維化形成を強く減少させた。一方、NASHモデルの発症および進行には、炎症との関連性が強く示唆されてきた。実際、我々の実験でもNASHモデルの肝臓において、炎症細胞の強い集積と炎症メディエーターを誘導するTumor Necrosis Factor (TNF)-の増加を認めた。しかし、キマーゼ阻害薬では、これらが強力に抑制されており、キマーゼ阻害薬による強い抗炎症効果の可能性が示唆された。つまり、キマーゼ阻害薬の抗炎症作用を介した作用もNASHの治療効果に大きく影響した可能性が示唆されたが、現時点ではキマーゼと肝炎との直接の関連性を示した報告はない。 今後の推進方策として、NASHの治療効果を示したキマーゼ阻害薬の機序を更に解明し、NASH治療におけるキマーゼ阻害薬を用いる意義を明確にしたいと考えている。具体的には、リポポリサッカライド(LPS)とD-ガラクトサミン(D-Galn)を投与して作製する肝炎モデルを用いて、キマーゼの動態解析とキマーゼ阻害薬の影響を解析することにより、キマーゼと肝炎との関連性を明確にしたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
リポポリサッカライド(LPS)とD-ガラクトサミン(D-Galn)を投与し肝炎モデルを作製し、肝臓中のキマーゼ活性、炎症の指標としてTumor Necrosis Factor (TNF)alpha、インターロイキン(IL)beta、IL-18、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)-9の遺伝子発現及び蛋白、酸化ストレスマーカーとしてマロンジアルデヒド(MDA)を定量する。又、組織切片を用い、肝組織中に浸潤する炎症細胞数を定量し、キマーゼと肝炎の関連性を明らかにする。又、キマーゼ阻害薬を投与する事により、炎症関連因子と肝組織への炎症細胞集積に対する影響を解析、キマーゼ阻害薬の肝炎に対する直接の効果を明らかにする。 具体的に、LPSとD-Galnをハムスターに投与、経時的に血液及び肝を採取。血液でAST、ALT、TNFalpha、MDAを測定、肝組織で、キマーゼ活性、炎症細胞浸潤、炎症関連因子のTNFalpha、IL-1beta、IL-18、MMP-9を測定。これらの解析により、キマーゼ活性と炎症浸潤、炎症マーカーとの関連性を明らかにしたい。又、LPS + D-Galn誘発肝炎モデルは、マウスでは約千報の報告がある確立されたモデルだが、ハムスターでは同様モデルの報告がない事より、マウスでも同様に実験する予定である。 又、ハムスター又はマウスにLPS + D-Galnを投与する3日前よりキマーゼ阻害薬又はプラセボをオスモティックミニポンプにて投与を開始、LPS + D-Galnによる肝炎に対するキマーゼ阻害薬の影響を解析する。 これら2つの実験を行う事により、キマーゼと肝炎との直接の関連性を解析する事で、キマーゼ阻害薬のNASHモデルで見られた抗炎症作用の病態生理学的役割を解明できると考える。 今年度は最終年度であり、これ迄の結果及び今年度の成果の学会発表と論文投稿を行う予定である。
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