研究課題
本研究は、現在、増加している脂肪性肝障害を背景とした肝細胞癌症例における背景肝の特徴を特に、切除後細胞障害や再生能の観点から明らかにすることを目的として行ってきた。過年度の結果から、臨床面では背景肝の脂肪化が多い症例は術後肝障害を生じやすく、炎症反応も遷延することが明らかとなったが、致命的な合併症の発生はなく現行の切除範囲設定および臨床的判断の妥当性も確認された。切除限界を目指し動物実験も試みたが、疾患モデルの結果はヒト臨床結果とは異なり手術手技、麻酔などの切除範囲以外の動物に与える影響が大きく共通点を見いだせなかった。本年度は動物との対比よりヒト脂肪性肝障害症例が背景に有する分子生物学的因子として細胞死に着目をし保存血清より解析を行った。細胞死のマーカーとして決中に存在するcytokeratin 18 fragmentを測定することにした。脂肪性肝障害者は単純性脂肪肝よりも細胞死の頻度が高いことを見出した。これは他のウイルス性疾患と比べても高く、また担癌症例でも他疾患による担癌症例と比べその頻度は高かった。細胞死は腫瘍因子とは関連なかったことから、背景肝は細胞死の亢進した不安定な状態にあることが推察された。統計学的な有意差には至らなかったが、cytokeratin 18 fragment高値例は術後肝障害が多い傾向を示しており、より安全な肝切除のためには背景肝の細胞死の状況を念頭に入れる必要がありcytokeratin 18 fragmentは有望なマーカーとなる可能性が示唆された。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (5件)
臨牀と研究
巻: 90 ページ: 1105-1108