研究概要 |
研究の全体構想は膵癌幹細胞を標的とする新規治療薬の開発をめざすことである。近年、放射線や化学療法耐性を示す癌細胞の一群が報告され、がん幹細胞と呼称される。このがん幹細胞を次世代の分子標的薬に期待がかかる。われわれは正常膵臓組織幹細胞と高悪性度のヒト膵癌が幹細胞マーカー(CD133)を発現することを明らかにした(Hori et al. Stem Cells, 2008)(Shimizu et al. Pancreas, 2009)(Hashimoto et al. Pathobiology, 2011)。さらに、既存の抗がん剤に対して耐性を示した進行膵癌患者から10種類のCD133陽性膵癌幹細胞株の樹立にも成功した。本研究ではヒト膵癌幹細胞株の増殖阻害機構を分子レベルで解明し、これらを応用した新規治療薬の開発をめざすことを目的としている。われわれが樹立したCD133陽性初代膵癌幹細胞株が無血清培地下でfeeder細胞との接着依存性にコロニーを形成することを確認した。さらに、膵癌幹細胞株とfeeder細胞の接着により基底膜の主成分であるラミニンの発現誘導を遺伝子発現や蛋白発現で確認している。また、in vitroで腫瘍抑制効果が確認されたNotch阻害剤がヌードマウスにおいても腫瘍増殖を阻害することを明らかにした。一方、ケルセチンはマウスにおいては耐糖能異常を引き起こすことが明らかになったので、中止した。樹立した膵癌幹細胞株は、in vitroやin vivoにおいて依然として抗がん剤に対する反応を呈することが明らかになった。抗がん剤投与により変化する遺伝子を解析すると、上皮間葉転換(Epithelial-Mesenchymal Transition:EMT)を司る因子の発現誘導を明らかにした。
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