研究課題/領域番号 |
23592018
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
遠藤 格 横浜市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (60211091)
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研究分担者 |
平野 久 横浜市立大学, 生命ナノシステム科学研究科, 教授 (00275075)
森 隆太郎 横浜市立大学, 大学病院, 助教 (90596412)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | イメージング / 癌微小環境 |
研究概要 |
【膵癌間質と正常膵間質における発現蛋白の網羅的解析】膵癌切除例の病変部10例とコントロール群としてIPMA切除例の非病変部8例からLMDにて間質部分のみをサンプリング、蛋白を抽出した。LC FT-LTQ MSにて発現蛋白を同定、定量し、1498種類の蛋白を同定した。そのうち2群間の発現差が大きく、文献的に悪性疾患との関連が示唆される蛋白(up:GPR183,down:DPYSL3)を候補蛋白として選出した。【候補蛋白DPYSL3(CRMP4)の裏付け実験ならびに機能解析実験】膵癌切除症例の癌部と非癌部11症例から肉眼で検体を採取し、RTPCRを施行した結果、CRMP4のみ有意に癌部で発現が上昇していた。この結果は、網羅的蛋白解析の結果と逆であった。その理由として、癌部mRNAは間質細胞よりも癌細胞内のmRNAを反映している可能性があり、組織切片での免疫染色にて、CRMP4発現の局在を検証することが必要であったため、膵癌組織と正常膵組織で免疫組織化学を施行した。その結果、間質細胞(軽~中等度)だけでなく、膵癌細胞(強発現)においてもCRMP4の発現が確認され、膵癌細胞自体において、CRMP4が重要な役割を果たしている可能性が示唆された。そこで、膵癌切除症例53例において、免疫組織化学を行い、膵癌細胞におけるCRMP4の発現と臨床プロファイルとの関連を検証した。その結果、膵癌においてCRMP4の発現は強力な予後、再発予測因子であり、静脈浸潤、肝転移とも相関を認めた。また、CRMP4高発現膵癌細胞株(CAPAN1)をKnock downし、転移 assayを施行した結果、CRMP4の発現低下により、浸潤能の低下が認められた。これらの結果から、CRMP4が膵癌細胞の浸潤を促進し、静脈浸潤、肝転移を増加させ、予後を増悪させていることが示唆された(AACR2012発表、論文投稿中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の仮説では、候補蛋白は癌、非癌部において、間質細胞でのみ発現に差があり、正常腺管上皮と膵癌細胞では差がないと考えており、間質細胞(主に線維芽細胞)に焦点を絞った実験を計画していた。しかし、実際には候補蛋白(CRMP4)の裏付け実験により、CRMP4が間質細胞だけでなく、膵癌細胞にも発現していることが確認され、膵癌細胞自体におけるCRMP4の発現が癌細胞の浸潤能を促進し、静脈浸潤、肝転移を増加させ、膵癌患者の予後を増悪させていることが分かった。当該年度の研究実績としては、線維芽細胞の実験がやや遅れているが、癌細胞と間質とは密接に関係しており、上記の結果は癌細胞と間質細胞との相互作用(autocrine やparacrineによる蛋白の授受の可能性など)を強く示唆する所見である。これらの所見は膵癌間質の役割を解明していく上で、非常に重要な研究成果であり、その事を加味し、概ね順調に研究は進行していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
【CRMP4-EGFP, Long formCRMP4-EGFP安定発現株の作成】CRMP4は前立腺癌では癌細胞の浸潤を抑制することが報告されており、本研究の膵癌における結果とは逆である。この理由として、CRMPのsplising isoform(Long form)が関係していると考えられる。肺癌ではLong formCRMP1がCRMP1とは正反対の作用を有し、癌細胞の浸潤を促進するという報告がなされており、CRMP4においてもsplising isoform により、癌浸潤における作用が異なる可能性がある。そこで、CRMP4の各isoformの作用を検証するために、CRMP4-EGFP, Long formCRMP4-EGFPのプラスミドを作成し、膵癌、前立腺癌の細胞株に導入し、安定発現株を樹立することを計画している。これらの安定発現株を利用し、vitroではproliferation, invasion assay, filopodiaの観察を施行し、vivoでは膵癌、前立腺癌の同所移植移植マウスモデルを用い、whole body imagingで腫瘍形成能、転移能を比較する。【ノックアウトマウスを使用した実験系】CRMP4ノックアウトマウス完成後、ノックアウトマウス、正常マウス膵からの線維芽細胞初代培養系の樹立する。これらの線維芽細胞や培養上清を膵癌細胞と共培養し、膵癌細胞の増殖能、浸潤能の変化を検証する。また、蛍光タンパクを標識した膵癌細胞を各々のマウスに同所移植し、whole body imagingで腫瘍形成能、転移能を比較する。【候補蛋白(GPR183)の裏付け実験ならびに機能解析実験】近年、癌の進展を促進するマクロファージ(TAM)が注目されている。最近の報告でGPR183がマクロファージにも発現していることが分かり、TAMと関連を検証していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
【CRMP4-EGFP, Long formCRMP4-EGFP安定発現株の作成】CRMP4の各isoformの癌細胞に対する作用を検証するために、CRMP4-EGFP, Long formCRMP4-EGFPのプラスミドを作成し、膵癌、前立腺癌の細胞株に導入し、安定発現株を樹立する。これらの安定発現株を利用し、vitroではproliferation, invasion assay, filopodiaの観察(Factinの染色)を施行し、vivoでは膵癌、前立腺癌の同所移植移植マウスモデルを用い、whole body imagingで腫瘍形成能、転移能を比較する。【GPR183の裏付け実験ならびに機能解析実験】TAMは癌組織間質に多数存在し、癌の増殖、浸潤、転移、血管新生、免疫抑制など、癌細胞に有利な微小環境を形成する。GPR183はB cellに発現しているCPCRとして知られているが、最近の報告でマクロファージにも発現していることが分かり、TAMと関連するCPCRである可能性が示唆されている。癌部、非癌部の膵組織におけるGPR183の発現をrealtimeRTPCR,免疫組織化学で確認する。さらに、膵癌組織に遊走しているマクロファージにおけるGPR183の発現を2重染色により検出し、臨床プロファイルとの関連やTAMマーカー(CD68,163,204 etc)との相関を検証する。【ノックアウトマウスを使用した実験系】ノックアウトマウスの作製には一般に1-2年以上を要するため、次年度以降も継続して行う。これらの実験に必要なプラスミドDNA、細胞株、プライマー、抗体、マウス各種、ほか試薬類を購入するために次年度の研究費を使用する。
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