研究課題/領域番号 |
23592018
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
遠藤 格 横浜市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (60211091)
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研究分担者 |
平野 久 横浜市立大学, 生命ナノシステム科学研究科, 教授 (00275075)
森 隆太郎 横浜市立大学, 附属病院, 助教 (90596412)
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キーワード | 膵癌 / 間質 / 転移 / 浸潤 / ノックアウトマウス |
研究概要 |
【候補蛋白DPYSL3(CRMP4)の機能解析実験】膵癌においてCRMP4の発現は強力な予後、再発予測因子であり、静脈浸潤、肝転移とも相関を認めた。また、CRMP4高発現膵癌細胞株(CAPAN1)をKnock downし、proliferation assay, invasion assayを施行した結果、CRMP4の発現低下により、増殖には変化を認めなかったが、浸潤能の低下が認められた。これらの結果から、CRMP4が膵癌細胞の浸潤を促進し、静脈浸潤、肝転移を増加させ、膵癌患者の予後を増悪させていることが示唆された(Ann Surg Oncol. 2012.)。 【CRMP4-EGFP, Long formCRMP4-EGFP安定発現株の作成】昨年度の研究成果の考察からCRMP4のsplising isoform により、癌浸潤における作用が異なる可能性が示唆された。当該年度においてCRMP4-EGFP, Long formCRMP4-EGFPプラスミドを作成した。今後はこれらのプラスミドを使用し安定発現株を作成し、細胞増殖能、浸潤能を比較検討する。In vivoにおいても膵癌、前立腺癌の同所移植移植マウスモデルを用い、腫瘍形成能、転移能を比較する。また、CRMP4の阻害薬(酵素阻害薬、上流制御因子のアゴニスト、アンタゴニスト)の効果を検討し、臨床応用への道を模索していく。 【CRMP4ノックアウトマウスを使用した実験系】当該年度までにCRMP4ノックアウトマウスが完成し、使用可能となった。今後はCRMP4ノックアウトマウス、正常マウス膵からの線維芽細胞初代培養を樹立し、これらの線維芽細胞や培養上清を膵癌細胞と共培養し、膵癌細胞の増殖能、浸潤能の変化を検証していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の報告書に記載のとおり、本研究は当初、間質細胞(主に線維芽細胞)に焦点を絞った実験を計画していた。しかし実験を進めていく過程で、候補蛋白CRMP4が間質細胞だけでなく膵癌細胞自体にも強発現していることが確認された。この結果は癌細胞と間質細胞との相互作用を強く示唆する所見であり、膵癌間質の役割を解明していく上で非常に重要な研究成果であると考え、まず膵癌細胞におけるCRMP4の役割を解明することに焦点を絞る事とした。その結果、CRMP4が癌細胞の浸潤能、静脈浸潤、肝転移を促進し、膵癌患者の予後を増悪させており、膵癌治療の重要な標的分子となることが分かった(Ann Surg Oncol. 2012.)。今後は臨床応用を念頭に置き、CRMP4の阻害薬(酵素阻害薬、上流制御因子のアゴニスト、アンタゴニスト)や治療モデルの開発に重点を置く予定である。上記の目的を達成するため、当該年度までにCRMP4-EGFP, Long formCRMP4-EGFPのプラスミドやCRMP4ノックアウトマウスの作成に成功しており、概ね順調に研究は進行していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
【CRMP4-EGFP, Long formCRMP4-EGFP安定発現株の作成】当該年度においてCRMP4-EGFP, Long formCRMP4-EGFPプラスミドの作成に成功した。これらのプラスミドを使用し安定発現株を作成し、浸潤、転移能を主に同所移植マウスモデルで比較検討する予定である。 【膵癌におけるCRMP4の制御機構の解明】上記のようなCRMP4の阻害薬を開発していくにあたり、制御機構の解明は必要不可欠である。CRMP4の制御因子としてセマフォリン(Sema 3A、Sema4D)という神経分化促進因子やNGFのような神経栄養因子が知られている。また、CRMP4はGSK3βやCDK5によってリン酸化されactivateされることも知られており、これらの因子がどのように膵癌におけるCRMP4の作用に関与しているかを解明する。 【CRMP4ノックアウトマウスを使用した実験系】当該年度までにCRMP4ノックアウトマウスが完成し、使用可能となった。今後はCRMP4ノックアウトマウス、正常マウス膵からの線維芽細胞初代培養を樹立し、これらの線維芽細胞や培養上清を膵癌細胞と共培養し、膵癌細胞の増殖能、浸潤能の変化を検証していく。 【Kras G12D 発現CRMP4ノックアウトマウスの作製】Kras G12D 発現マウスには、生後数週でPanIN(膵癌の前癌病変)が確認でき、そこに人工的に膵炎を惹起することにより浸潤癌を得ることが知られている(膵癌の自然発癌モデル)。このマウスとCRMP4のノックアウトマウスを掛け合わせることにより、Kras G12D 発現CRMP4ノックアウトマウスを作成し、このマウスに発生した膵癌を利用することにより、膵癌におけるCRMP4の役割を詳細に検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
CRMP4-EGFP, Long formCRMP4-EGFP安定細胞株の作成に時間がかかっており、ヌードマウス購入を延期したため繰り越し金(493,915円)が生じた。安定株完成後、同所移植マウスモデルを用い、浸潤、転移能を比較検討してために、ヌードマウスを購入する。 膵癌におけるCRMP4の制御機構の解明していく上で、セマフォリン(Sema 3A、Sema4D)やNGFのような上流制御因子とそのアンタゴニストが必要である。また、CRMP4のリン酸化酵素(GSK3β、CDK5)やその阻害薬を購入する。 CRMP4ノックアウトマウスを使用、維持していく上での必要経費に研究費を使用する。また、Kras G12D 発現マウスの導入費用にも一部使用する。
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