【対象と方法】(実験1)生体吸収性ポリ乳酸共重マルチブロック共重合体を基材とした、ナノファイバーを開発した。そのナノファイバーを電解紡糸処理した繊維製シート(厚さ40~50μm)を開発し、その強度を測定した。親水化処理は、電解紡糸膜を0.2M NaOH水溶液とエタノールの(5:1)混合溶液に浸し、すぐに取り出し、これを1時間ごとに繰り返し、水を拭き取った後、接触角を測定し、親水化されたことを確認し、40℃で5時間加熱真空乾燥することによって行った。動物実験にはこの電解紡糸膜をEOG滅菌した後に使用した。(実験2)ビーグル犬16頭を用いて、全身麻酔下に左開胸し、心膜を一部切除した部位を2箇所作成した。1箇所をコントロールとし、もう1箇所に2x2cmの繊維製シート(A群:材料表面を親水化処理を施行したもの、B群:親水化処理を施行しなかったもの)を移植し、12週間、24週間後にsacrificeし肉眼的癒着の程度、組織学的な癒着評価、および生体吸収性の程度について比較検討した。 【結果】(実験1)新たに開発した電解紡糸膜は、親水化処理の有無にかかわらず、約1N以上の引き裂き応力があり、糸による縫合固定には全く問題がないことが確認された。(実験2)移植後12週間では、親水化処理をしなかった群において、紡糸膜は残存しており、強い癒着の原因となっていた。親水化処理を約10時間施行した群では、膜は一部残存しているものの、生体吸収された部位はフィブリンのような薄膜の状態であり、周囲との癒着も軽度であった。移植24週モデルは、数週後にsacrifice予定である。【結後】電解紡糸法を用いて、全く新しい生体吸収性膜を開発した。表面加工処理により、強度を保ちながらも、生体吸収速度をコントロールできると考えられた。この生体吸収性膜は人工心膜および人工血管への臨床応用が可能と考えられた。
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