研究課題/領域番号 |
23592026
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
石坂 透 千葉大学, 医学部附属病院, 講師 (10372616)
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研究分担者 |
松宮 護郎 千葉大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (20314312)
黄野 皓木 千葉大学, 医学部附属病院, 助教 (40375803)
石田 敬一 千葉大学, 医学部附属病院, 助教 (40375671)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | ナノファイバー / 人工血管 / 心臓血管外科学 / 生体組織工学 |
研究概要 |
本研究は、生体適合性、生体分解性に優れた新素材、ポリグルタミン酸ナノファイバーに着目し、これを人工血管基材としてscaffoldに配することで、良好な自己細胞による血管壁構造の再構築が得られ、より早期にscaffoldに依存しない血管壁強度と、優れた抗血栓性とを有する人工血管を開発することを目的とした。平成23年度は、人工血管基材の至適な作成条件決定のためのPilot studyを行なった。架橋剤の濃度やナノファイバーの積層数、熱融着の加熱温・時間など異なる条件下で基材を作成し、繊維形態保持、強度保持などの観点から条件を絞り込んだ。その結果1.架橋剤10%配合ナノファイバーシートをPLLA織布に熱融着したもの、2.架橋剤40%配合ナノファイバーシートをPGA溶剤塗布PLLA織布に熱融着、3.PGA溶剤塗布PLLA織布のみ、4.ポリグルタミン酸ゲル溶液をPLLA織布に塗布したもの、5.架橋剤10%配合ナノファイバーシートをPGA溶剤塗布PLLA織布に熱融着後、リン酸緩衝液に浸漬したもの、の5種類を準備した。実験は上記の基材を、生後12週のラットの腹腔内および大腿部皮下に埋植し、埋植後1週4週8週の3回にわけて摘出し、肉眼所見比較ならびに、ホルマリン液に浸漬固定後HE染色スライド標本を作成して病理学的評価を行っている。その結果、埋植後の各群のラット生育状況から、活動性や体重増加などに各群間での差はなく、ポリグルタミン酸ナノファイバーシートの生体内への移植の安全性が確認できた。腹腔内標本の肉眼所見では、基材(1)において埋植後1週の早期より、基材ほぼ全面にわたる自己細胞の浸潤による被覆、肥厚が観察され、他の作成条件に比し、細胞親和性、生体適合性に優れていることが示唆された。病理学的検討については標本作成中で、光顕的に細胞浸潤の程度、炎症反応の有無などを確認する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究計画は、ポリグルタミン酸ナノファイバーの組織親和性、生体適合性を活かすべく、ナノファイバーを人工血管基材として配する、至適な人工血管基材の作成条件を探ることである。ポリグルタミン酸ナノファイバーは、ポリグルタミン酸にオキサゾリン架橋体を配合したものをエレクトロスピニング法によりナノファイバー化して得られる。基礎となる人工血管基材の作成条件として、1)架橋体10%配合ポリグルタミン酸ナノファイバーを12g/平方メートルの目付でシート状に積層させたシートを、ポリ乳酸合成糸による織布に、熱融着により接着させたものを得た。さらに比較対照となる作成条件として、2)架橋体40%配合のもの、3)ナノファイバーのないもの、4)ポリグルタミン酸をゲル状に塗布したもの、5)1)の条件で作成後リン酸緩衝液に浸漬したもの、を用意した。これら5種類の条件で作成された基材を、Invivo pilot studyとして、ラットの腹腔内、大腿部皮下に埋植後、1,4,8週後に経時的に摘出した。実験の結果より、まずポリグルタミン酸ナノファイバーシートの生体内への移植の安全性が確認できた。また摘出標本の肉眼所見より、作成条件1)の架橋体10%配合ポリグルタミン酸ナノファイバーシートをポリ乳酸織布に熱融着させた基材は、他の条件で作成した基材に比し、より早期の良好な細胞浸潤による織布の被覆が観察された。最終的な判断は摘出標本のHE染色病理組織的な評価が待たれるが、ポリグルタミン酸ナノファイバーは、当初の予想通り、生体内においても、良好な組織親和性、生体適合性を示すことが期待できると考えられた。また人工血管基材の作成条件についてもほぼ絞り込むことができており、これまでの研究到達度は概ね順調と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、Pilot studyの病理組織的な評価の結果も踏まえて、最適と思われる人工血管基材の作成条件を決定する。その人工血管基材を用いて、ラビットの頸動脈ないしは肺動脈の一部を外科的に置換する移植実験を行う。人工血管基材移植後のラビットを経時的に犠牲死させ、埋植した基材を周囲の自己血管壁ごと摘出し、形態学的、組織学的、免疫組織学的、生化学的、機械強度的な検討を加える。標本摘出の時期についてはPilot studyの結果を参考にする。比較対照として既存の人工血管である、expanded poly-tetra-fluoro-ethilene素材や、ポリグルタミン酸ナノファイバーを配していないポリ乳酸織布の使用を考慮している。検討結果を統括し、ポリグルタミン酸ナノファイバーシートの人工血管素材としての応用の可能性を評価し、さらに将来への展望を示す。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の研究費は、ラビットInvivo移植実験に必要な実験動物、ならびに飼育費と、ラビット用人工呼吸器、麻酔薬、免疫組織染色に必要な抗体、生化学分析に必要な化学薬品に当てられる。また動物実験助手の雇用のための人件費も必要となる見込みである。
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