本研究の目的は前回の研究から引き続き、実験豚の交感神経および、Ganglion Plexusを持続刺激することで、安全な心停止が得られるかを立証することである。 安定した交感神経刺激による心停止は、自己作成した電極間距離3㎜のペン型双極刺激デバイスを使用し、左右上肺静脈近傍のGanglion Plexusを25-30Hz,矩形波双極パルス,出力8V,パルス幅0.4msで刺激することで得られることを確認した。特にこの効果は左側の迷走神経心臓枝からGanglion Plexusの刺激によって強く生じた。 しかし、右側のみの刺激では、刺激と同時に心停止が得られるものの、数分で自然心拍が再開し、その後いったん刺激を中止すると、再度刺激しても心停止を誘発できないことも判明した。そこで刺激装置を2台使用し、左右を同時に刺激(上記条件)することで30分にわたる心停止を得ることができた。臨床に準じた手術を想定し、実験豚に上行大動脈送血、上下大静脈脱血の完全体外循環を確立。常温、心拍動下に、パイロットスタディで得られた刺激条件にて心停止を誘発し、30分後に刺激中止し心拍動を再開させた。 【結果】脈は刺激中止後、ただちに心拍動再開、3分以内に心停止前HRに復した。血圧は心拍再開後5分で、人工心肺を停止し術前血圧に復した。脈、血圧とも術前値と有意差は認めなかった。また術前、心停止30分後,心拍再開30分後の心筋逸脱酵素にも有意差は認めなかった。さらに体外循環下、電気刺激心停止状況下で、心筋酸素飽和度は90±4%と心拍動下時の82±7%に比して有意に高いことが判明。SPYシステムでも心停止時の心筋血液還流低下を認めなかった。 【結語】本研究から交感神経刺激心停止法は、心筋酸素代謝を低下させることがなく、その結果心機能障害も減少できる有用な方法であり、臨床応用も可能であると考えられた。
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