研究実績の概要 |
食生活の欧米化、高齢化社会により動脈硬化症による動脈閉塞、狭窄症は増加傾向にある。 そのため冠動脈、下肢バイパス術など血行再建手術は増加傾向にある。その一方で、静脈グラフトを使用したバイパス術は、吻合部での血管内膜肥厚が原因で10年間に約60%は閉塞すると報告されている。内膜肥厚を引き起こされる原因はRoss らによると血管平滑筋の遊走能、増殖能の亢進、細胞外基質の堆積、アポトーシスの抑制であると報告されている。 われわれは、いままでその起序をコントロールする手段として薬剤溶出ステントで使用されているラパマイシンのターゲットであるmTORの活性の抑制に注目してきた。代表研究者は、ラパマイシンが増殖因子(EGF,PDGF 等)の刺激だけではなく、細胞外基質の刺激(コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニンなど)による、細胞遊走を強力に抑制することを現在までに明らかにしてきた。このことはバイパス術後内膜肥厚を起こすcell signaling の重要な役割の一つであると考えられる。 mTORのsignaling抑制のためsiRNAを使用し検討をおこなっており、大伏在静脈、大動脈の平滑筋細胞を使用してきた。本年度は冠動脈細胞の平滑筋細胞での検討を行った。 さらにグラフト閉塞部を検討すると、吻合部において内膜肥厚に加え、石灰化を伴っていることが多く、血管壁の石灰化もグラフト閉塞の原因の一つと推察される。特に糖尿病を合併した患者では石灰化が著しく、グラフト閉塞率が高い。われわれの検討では糖尿病を併存する重症大動脈弁狭窄症患者の上行大動脈の石灰化を検討したところ重度石灰化群では糖尿病合併を32.0%、非石灰化群では19.6%であった。このことは石灰化と糖尿病に強い関連があることを示し、そのメカニズムを今後検討し、そのシグナリングを制御することも新たなグラフト開存率を向上させる方法につながると考えられた。
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