研究概要 |
僧帽弁疾患では心房の線維化に伴い心房細動の合併が増加するとされる。これまでに心房細動における心房組織の線維化を示す血中マーカーがいくつか報告されている(細胞外マトリックスの分解に関与するMatrix metalloproteinaseやその阻害物質であるTissue inh ibitor of Metalloproteinase、I型コラーゲンカルボキシル末端プロペプチドの血中における濃度と心房細動との相関性)。しかしこれらは、心房特異的な物質ではないため、間接的にしか心房組織の線維化を表していない問題点がある。今回我々は、心房細動疾患に おける心房組織の線維化率と術前心房性Na 利尿ペプチド(ANP)/脳性Na 利尿ペプチド(BNP)比との相関関係を明らかにし、心房組織の線維化を表す血中マーカーとしてのANP/BNPの有用性を検討した。心房組織線維化率は、採取した心房組織(左心房、右心房、左心耳)のパラフィン標本を用いて、コラーゲンタンパク(シリウスレッドで染色)と非コラーゲンタンパク(ファストグリーンで染色)を定量することで求めた。また、血中のANP, BNP値の測定はchemiluminescent enzyme immunoassay法により求めた。当科におけるMaze手術の待機手術患者16名に対して、左房組織の線維化率と術前ANP/BNP 比の相関関係を求めたところ負の相関を認めた(r=-0.69; p<0.003)。ROC曲線を用いて、ANP/BNP比とMaze手術後の洞調律化の関係性を検討したところ、術前ANP/BNP比0.81以上が、洞調律維持の因子であった。さらにANP/BNP比と左房の線維化には負の相関が認められた。 以上より、ANP/BNP比のMaze術後洞調律化予測因子として有用性が示唆された。
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