研究概要 |
開心術後の消化管出血予防に用いられるプロトンポンプ阻害薬(PPI)と,抗凝固薬ワルファリン(WF)の併用は,両者が薬剤代謝酵素CYP2C19により代謝されるための薬剤相互作用により,プロトロンビン時間国際標準化値(INR)が異常高値となり出血合併症のリスクが高くなることが知られている.これに対するリスクマネージメントを目的に CYP2C19は遺伝子多型であるExtensive metabolizer(EM), Intermediate metabolizer(IM), Poor metabolizer(PM)に関するのゲノム解析を行い,WF投与量やPPIの選択におけるオーダーメイド処方の実現を検討した.23年度終了時点で69例が入力され,うち53例でゲノム解析,エンドポイントであるINR異常値や出血合併症に関する統計処理が終了した.対象例はCYP2C19で代謝されるPPIのLansoprozol(LP)群20例,非酵素的代謝のrabeprazol(RB)群33例に割り付けられた.各遺伝子型はEM45.3%,IM34.0%, PM20.7%で日本人の平均値に合致していた.INR異常高値(>3.5)例はLP群10例,RB群2例でLP群で有意に高値(P=0.0004)であったが,各遺伝子型に有意差はなかった.この12例中,消化管,眼球,関節内出血等の合併症を6例に認め,発症時の平均INRは4.43で全例LP群であった(P=0.0017).遺伝子型はEM1例,IM3例,PM2例と現時点で少数のため有意差はないもののIM,PM例で高い傾向であった.開心術後WFとPPIとしてlansoprazolを併用する場合,日本人の6割りを占める薬剤代謝速度の遅延したCYP2C19,IM,PM例においてはINRが異常高値をきたし出血合併症のリスクが高くなる可能性が示唆された.
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