研究課題/領域番号 |
23592053
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
榊原 謙 筑波大学, 医学医療系, 教授 (60192085)
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研究分担者 |
野口 雅之 筑波大学, 医学医療系, 教授 (00198582)
佐藤 幸夫 筑波大学, 医学医療系, 教授 (10312844)
松下 昌之助 筑波技術大学, 保健科学部, 准教授 (70359579)
酒井 光昭 筑波大学, 医学医療系, 講師 (60375508)
兵藤 一行 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 准教授 (60201729)
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キーワード | 放射光 / 血管造影 / HARP受像管 / 肺癌 / 微小癌 / 転移 / 新生血管 |
研究概要 |
本年度は、微小な転移性肺腫瘍が、放射光血管撮影の高分解能を利用して検出できることを示すだけではなく、腫瘍血管の特異性をどのように反映しているか、定量的に検討した。また、画像が平面であるため、肺動脈の屈曲部位と腫瘍を区別するため、①角度固定法、②回転法を導入し、腫瘍診断の確実性について検討した。 1)腫瘍血管の透過性増加の検討:腫瘍血管は、256 gray scale(256: black, 1:white)の階調において、peak値180から、正常肺動脈は20秒後に70まで減衰するのに対し、腫瘍血管では120までの減少に留まり、その差は50であった。これは、256 scaleのほぼ1/5の濃度差にあたり、比較的大きなものであった。これは、腫瘍血管の造影剤透過性亢進という生物学的特性を、黒のダイナミックレンジの大きいHARP受像管が、画像としてここまで拡大したものと考えられる。この50階調の差は、さらに腫瘍別の特性や、血管新生療法の効果判定、また、反応性リンパ節腫大との鑑別を、将来可能にすることが期待される。 2)肺動脈屈曲部との鑑別:肺動脈屈曲部もタンジェント方向に造影剤が流れるため、2次元画像としてとらえると、造影剤減衰の遅延として捉えられる。これを腫瘍性造影剤遅延と鑑別するため、①角度を固定して3方向(正面、±25度)から撮像、②回転させて撮像(±30度まで回転)の2つの手法を用いて撮像した。その結果、肺動脈屈曲部像は、回転に応じて移動するのに対し、腫瘍はその解剖学的位置を変えることはなく、両者の鑑別が可能であった。この手法は、将来臨床応用を想定する場合、有用であると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
全体の計画は、以下の理由で少し遅れている。 1)実験日の設定の減少:高エネルギー加速器研究機構は、国立大学共同研究機関であり多くの研究が審査の上、行われている。東日本大震災の被災の影響で、長期間実験が行われず、復旧・再開後もその期間に実験できなかった多数の研究課題が、24年度の実験時間に振り分けられた。また、また、多大な電力を消費する放射光施設は、電力事情(価格高騰)、により当初計画より実験時間が全般的に制限された、等の事情により、実験日が大幅に減少した。 2)大動物の飼育問題:大動物(ヒツジ)を用いて、転移性腫瘍の検討を行う予定であったが、飼育所において飼育が困難な状況があった。そのため、大動物を用いた転移性腫瘍の実験は、動物種と飼育施設を変え、次年度に行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
1)画像の固定化:肺の転移性腫瘍による画像は、呼吸性移動と心拍動により移動している。小さな腫瘍性陰影の画像の変化を確実に捕捉するためには、画像ソフトウェアによる腫瘍像(ROI)の固定化が必要である。その上で、その部分の濃度変化を経時的に計測することになる。次年度は、このソフトウェアの開発もしくは入手を図る予定である。 2)反応性リンパ節腫大との鑑別:腫瘍形成時には、反応性リンパ節腫大も同時に発生すると思われる。この鑑別について、実験モデルを追加し検討する。 3)大動物での再現:大動物として、当初予定のヒツジではなく、カニクイザルを想定している。25年度はカニクイザルを用いた撮像を企画する。 4)他のmodalityとの比較:転移性の腫瘍病変を、放射光血管造影のみでなく、通常の血管造影法、動物用胸部CT、動物用胸部MRIを用いて撮像し、放射光血管造影との差異を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
1.実験用大動物として、カニクイザルの購入、飼育、血管造影、胸部CT、MRIにかかる費用を想定している。 2.画像固定化に関わるソフトウェアの開発に費用が必要となる。 3.また、ラット肺癌実験、ラットのリンパ節腫大との鑑別実験を継続する。 4.前年度と同様に、腫瘍細胞の保持と培養に関する費用が必要である。
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