研究課題
肺の修復・再生への実験的アプローチの一つとして我々は、胎生期肺組織移植の実験的検討を行ってきた。正常の成体動物への胎生期肺組織移植では、ラット、マウス、ブタにおいて細切した胎生期肺組織が、胸膜表面より注入移植した成体肺内で生着することを示してきた。ラット、マウスでは同一の近交系動物関での移植が可能であるため、拒絶反応による影響は除外できる実験系が準備できたが、我々が用いているSPFブタに置いては、移植に際しては免疫抑制剤の使用が必須となり、免疫抑制を十分に行う必要があることが判明した。そこでステロイド投与による本モデルにおける影響を、小型動物であるラットを用いて検討した。その結果、術後レシピエントへのステロイド投与は成体肺内に移植した胎生期肺組織移植の生着・分化を促進することがわかった。移植胎仔肺組織の分化の程度をTTF-1およびSP-Aを用いて検討すると、ステロイド投与群においてはコントロール群に比べて移植後1週、2週の時点でTTF-1の発現の増強が認められ、特に移植後2週目以降では肺胞に分化している領域の辺縁部でTTF-1の発現の増強を認めた。実験群において肺胞へ分化している領域でSP-Aの発現増強が見られた。Glucocorticoidの投与が移植片の肺胞への分化を加速させ、その領域でのTTF-1とSP-Aの発現が促進したと考えている。肺気腫病変への胎生期肺組織移植に関して、我々は肺気腫自然発症モデルであるpallid mouseの肺機能に関する報告(Lab Invest. 2009)をした経緯があり、このマウスの特徴を理解しているため、C57BL/6GFP胎仔肺組織を、1年齢に達して肺気腫を生じたpallid mouse: C57BL6/J pa+/pa+)に移植した。その結果、移植後1週から4週にかけて、正常胎仔肺組織が肺気腫肺に生着分化することを示した。