心停止ドナーからの肺移植後の虚血再灌流障害におけるmolecular mechanismは不明な部分が多く、臨床応用のためにもその解明が必要である。本研究では、心停止ドナーからの肺移植後の虚血再灌流障害のメカニズムおよび抗炎症作用の働きを解明し、さらに心停止ドナーからの肺移植後の虚血再灌流障害の抑制および予防を目的とした。ラット同所性肺移植モデルを用いて、総虚血時間が4時間になるよう冷虚血肺(生体ドナー群)と温虚血肺(心停止ドナー群)を作製し、移植した。移植から1時間後に心停止ドナー群で有意にPaO2は低値だった(p < 0.05)。しかし、移植から4時間後には心停止ドナー群の肺機能は改善し、生体ドナー群と同等の良好なPaO2を呈した。心停止ドナー肺は移植後にレシピエント体内で著明に肺機能が改善しており、このような現象は生体ドナー群ではみられにくく、新しい発見と考えられた。グラフト内のIL-10、HO-1などの抗炎症性サイトカインの発現量や経時的発現パターンをPCR法で解析したところ、心停止ドナー群では移植から1時間後に生体ドナー群と比較して有意に高発現していた(p < 0.05)。移植から4時間後には生体ドナー群でも高発現しており、両群に有意差を認めなかった。またIL-10、HO-1の経路で重要なp38MAPKsの発現もウェスタンブロッティング法で分析したところ、同様の変化を認めた。さらに呼気中のCO濃度を測定したところ、心停止ドナー群では生体ドナー群よりも速やかに上昇し、また高値を維持した。これらの結果から、心停止ドナーからの肺移植後の虚血再灌流障害が速やかに抑制されたのは、抗炎症作用が重要な働きをしていると示唆された。
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