23年度は2008年5月から2009年5までの間に九州大学大学院消化器・総合外科において切除された非小細胞肺癌57例を対象とし、p16、LINE-1の遺伝子をターゲットにPyroMark Q24 (QIAGEN社)を用いたパイロシークエンス法によるDNAメチル化の定量解析を行った。ゲノム全体の低メチル化の指標であるLINE-1とがん抑制遺伝子の一つであるp16の高メチル化(r=-0.269、p=0.043)に負の相関(Pearsonの相関係数)を認め、一見相反する事象に関連性を見出せたこと、また、LINE-1のメチル化と年齢(r=-0.233、p=0.08)にも負の相関傾向を認め、高齢者肺がんとLINE-1の低メチル化の関連性が指摘された。 活性酸素は肺がんをはじめ多くの悪性疾患において、発がんとの関連が指摘されている。又、組織の炎症により誘発される酸化ストレスは、DNA損傷だけでなく、DNAメチレーションの異常を引き起こすことが知られている。酸化ストレスを介したDNAメチル化の分子機構の理解は、高齢者発がん機構の解明だけでなく、治療の分子標的や予防法開発に重要な基礎的知見となりうると考えられることから、同一検体による手術標本をDNA酸化損傷生成物であるチミジングリコールの免疫組織化学染色により、DNA酸化ストレス傷害についての評価を行った。保存血清を用いて、血中酸化ストレス・抗酸化力をそれぞれd-ROMs (derivatives of reactive oxygen metabolites) testおよびBAP (biological antioxidant power) testにて測定した。DNA酸化傷害、酸化ストレスおよび抗酸化力の差異とp16及びLINE-1におけるメチル化との関連性は示されなかったが、DNA酸化傷害は喫煙指数と正の相関を示す傾向があり、喫煙による肺組織への酸化ストレス傷害の蓄積を反映していると考えられた。酸化ストレスは生活習慣病との関連性を指摘されているが、今回の解析では、BMI及び喫煙指数と酸化ストレスとの関連性は示されなかった。一方、抗酸化力は、喫煙指数と正の相関、BMIと負の相関を示す傾向にあり、非喫煙者及びBMIが高い症例における肺がんに血中抗酸化力の低下が関与している可能性が示唆された。 24年度は研究廃止のため実績なし
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