線維芽細胞から作成した弾力性のあるチューブ状の組織を、骨芽細胞から作成した虚脱に対する強度をもつリング状の組織が補強するという構造を持つ人工気管を作成した。これまでの検討でラットの大腿骨から採取した間葉系幹細胞を液状のコラーゲンと混合、リング状の鋳型内で三次元培養し、培養液にアスコルビン酸、デキサメタゾン、β-グリセロフォスフェイトを培養液に添加することによって間葉系幹細胞を骨芽細胞へ分化誘導可能であることが明らかとなった。また、線維芽細胞から作成した弾力性のあるチューブ状の組織の周りに間葉系幹細胞から分化した骨芽細胞で作成したリング状の組織を配置し、培養することによって作成した人工気管組織の硬度はラットの気管と有意な差が無いことが明らかとなった。これらの結果から、作成した人工気管組織はラットへの移植に使用できる可能性が示唆されていた。本年度は、この方法で作成した人工気管組織をラットの気管に移植することとした。 前年度の方法に従って弾力性のあるチューブ状の組織を、強度をもつリング状の組織が補強するという構造を持つ人工気管を作成した。全身麻酔下に同組織を成ラットの気管に移植した。呼吸器から離脱し、呼吸が再開しても人工気管虚脱することなく、ラットは自発呼吸可能であった。移植1日目の検体では人工気管は本来の形状を保っていた。また、組織学的にはリング状の組織の部分にのみカルシウム沈着を認め、チューブ状の組織が弾力性を失っていない可能性が示唆された。しかし、全例長期間の生存は得られなかった。これは、リング状の組織の破損、チューブ状の組織表面への分泌物の蓄積による窒息などの可能性が考えられ、更なる人工気管の最適化が必要であると考えられる。
|