環境応答性ナノ粒子はミセル粒子の研究を長年行なっている筑波大学学際物質科学センターの長崎幸夫教授の協力を得て作製されている。TEMPO内包ナノミセル粒子(RNP: radical-containing nanoparticle)を試作した。このナノ粒子は60-80 nmの粒子径をもち、低pHで粒子が分解する性質を持つようにデザインされていた。部分脳虚血ラットに対してRNPの脳梗塞の治療効果を検討し、RNPの静脈内投与により脳梗塞領域の減少が確認された。またさらにRNP以外のナノテクノロジーによる脳虚血に対する治療システムの可能性を検討した。脳梗塞領域を減少させるためには、神経細胞の生存率を上げるために神経栄養因子などのタンパク質を脳虚血領域に徐放させることが重要と思われた。そこでナノコンポジットによる繊維芽細胞成長因子-2(FGF-2)の脳梗塞領域への徐放システムを考案した。このシステムは頭蓋骨などの欠損部充填用生体材料の表面にアパタイト層を形成させ、このアパタイト層内にFGF-2を内包させたシステムである。この生体材料を体内へ植え込むとアパタイト層が徐々に溶解し内包していたFGF-2が徐放される仕組みである。このシステムを用いて部分脳虚血ラットを治療すると、脳梗塞領域の減少と長期的には血管新生も確認されている。 ナノテクノロジーを用いて作製されたナノ粒子、ナノコンポジットのポテンシャルは十分なものがあり、今後期待されるナノメディスンの発展を示唆する基礎的研究になったと考えている。
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