研究課題/領域番号 |
23592092
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
久門 良明 愛媛大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (80127894)
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研究分担者 |
渡邉 英昭 愛媛大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (30322275)
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キーワード | BINCs / MCP-1 / Fractalkine / CCR2 / CX3CR1 / cerebral infarction |
研究概要 |
NG2(NG2 chondroitin sulfate proteoglycan)とIba1(マクロファージマーカー)を発現するマクロファージは一過性脳虚血(90分)を負荷したラットの脳虚血中心部に集蔟する。我々は、これらの細胞をBINCs(Brain Iba1陽性/NG2陽性 Cells)と呼ぶが、神経保護的に作用することを示してきた。BINCsは骨髄由来細胞であり、虚血負荷後に虚血巣に浸潤するが、その機序は明らかではない。本実験では、ケモカインによるBINCsないしその前駆細胞の浸潤する機序を検討した。 その結果、1)脳梗塞巣から分離したBINCsがCCR2やCX3CR1のmRNAを、培養したアストロサイトがそれらのリガンドであるMCP-1とfractalkineのmRNAを発現していた。2)アストロサイトやMCP-1、fractalkineはBINCsの遊走を促進した。3)MCP-1、fractalkine、CCR2、CX3CR1のmRNAが虚血急性期の虚血中心部で発現した。4)免疫組織学的検討で、血管内皮細胞とアストロサイトendfeetにてMCP-1、fractalkineが高発現した。虚血中心部では、CCR2陽性/Iba1陽性の単球が虚血負荷1日後に血管壁の内側に接着し、CCR2陽性/CX3CR1陽性のマクロファージ様細胞が虚血負荷2日後の脳実質内にみられ、それはBINCsの前駆細胞と思われた これらの所見より、CCR2陽性の単球は、始めにMCP-1陽性の血管内皮細胞の働きで虚血巣に接着し、障害された血液脳関門を経由してfractalkine陽性のアストロサイトendfeetに向かって遊走する機序が考えられた。このように、ケモカインが神経保護的作用をもつBINCsの虚血巣への集蔟に重要な働きを担っていることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
BINCsの虚血脳への集族機序を明らかにするために、今年度は詳細な検討を加えて、新たな知見を得た。 1)Boyden chamber法による遊走能検査にて、ケモカインのMCP-1とfractalkine (各10 ng/ml)に対してもBINCsの遊走が促進されることが明らかになった。2)MCP-1、fractalkine、CCR2、CX3CR1のmRNA発現について、虚血負荷1、2日目に加えて、3、5、7日目まで、虚血中心部、虚血周辺部、対側脳の部位で検討した。その結果、いずれも虚血負荷1、2日目までの急性期に高発現し、その以降は急速に減じることが明らかになった。また、fractalkineのみが虚血負荷1日目に対側脳にて高発現していた。3)MCP-1の局在が血管内皮細胞であることを確認するために、虚血負荷2日目の脳で、confocal laser scan microscopyを用いてIB4で血管内皮細胞を染色した。その結果、虚血中心部にIB4陽性/MCP-1陽性細胞があり、内皮細胞がMCP-1を発現していた。GFAP陽性細胞(アストロサイトのマーカー)は、このIB4陽性/MCP-1陽性細胞に接して局在しており、MCP-1を発現していなかった。これらの所見より急性期には内皮細胞がMCP-1を虚血中心部で発現していることが証明された。 4)fractalkine陽性細胞の推移を観察した。その結果、fractalkine陽性のアストロサイトendfeetが、虚血負荷1日目には虚血巣の血管周囲に認められるが、2日目には消失し、虚血周辺部(ペナンブラ領域)にのみ認められた。TUNNEL染色で、虚血中心部の細胞が陽性になり、血管内皮細胞は死滅していなかった。 以上の結果、虚血急性期のBINCs(前駆細胞)の虚血脳内への浸潤機序を解明する目的は、ほぼ達成された。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、虚血急性期に多分化能をもつマイクログリア(BINCs)前駆細胞の虚血脳内への浸潤機序として、血管内皮細胞やアストロサイトに発現するケモカインと、浸潤細胞に発現するリセプターとが関連し合って進行することが明らかとなった。 今後は、BINCs前駆細胞の浸潤性を高めるケモカインを虚血脳に注入し、経時的に脳を摘出し、浸潤細胞の増加と多分化能をもつマイクログリアへの過程を観察する。そのために、1)ラットに虚血負荷を加え、虚血負荷直後と2日目に、ケモカインを脳内に注入する。2日目以降、経時的に脳を取り出し、抗Iba 1抗体、抗NG2抗体、抗nestin抗体、抗GFAP(glial fibrillary acidic protein)抗体を用いて、Iba 1陽性細胞が、その他の抗体を同時発現するか否かを、免疫組織学的に明らかにする。2)同様に、経時的に脳を取り出し、同抗体を用いて、ウェスタンブロットで、経時的に各種細胞の発現の有無と程度を半定量的に検討する。3)BINCsの多能性幹細胞としての可能性を検討するために、各時期の脳より分離したIba 1陽性細胞を培養し、各種抗体を用いて染色し、ニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイトへの分化について観察する。4)ケモカイン投与群と無投与群とを作成し、梗塞範囲や神経症状重症度の違いを検討する。 その結果、BINCs (Iba 1抗体とNG2抗体陽性細胞) へと変化していく過程が、組織学的および半定量的に明らかとなり、各時期での各細胞への分化が観察できる見込みである。また、ケモカイン投与による効果について明らかになることが期待される。
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次年度の研究費の使用計画 |
今後は、BINCs前駆細胞の浸潤性を高めるケモカインを虚血脳に注入し、経時的に脳を摘出し、浸潤細胞の増加と多分化能をもつマイクログリアへの過程を観察する。また、その効果も確認する。 そのために、1)ラットに虚血負荷を加え、虚血負荷直後と2日目に、ケモカインを脳内に注入する。2日目以降、経時的に脳を取り出し、抗Iba 1抗体、抗NG2抗体、抗nestin抗体、抗GFAP(glial fibrillary acidic protein)抗体を用いて、Iba 1陽性細胞が、その他の抗体を同時発現するか否かを、免疫組織学的に明らかにする。2)同様に、経時的に脳を取り出し、同抗体を用いて、ウェスタンブロットで、経時的に各種細胞の発現の有無と程度を半定量的に検討する。3)BINCsの多能性幹細胞としての可能性を検討するために、各時期の脳より分離したIba 1陽性細胞を培養し、各種抗体を用いて染色し、ニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイトへの分化について観察する。4)ケモカイン投与群と無投与群とを作成し、梗塞範囲や神経症状重症度の違いを検討する。 そのため、ラット購入(400,000円)薬品購入(700,000円)等の購入を見込んでいる。
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