研究概要 |
【目的】Glycogen synthase kinase (GSK) 3βは種々のがんの腫瘍形質に関与するセリン・スレオニンキナーゼである。我々は、活性化型GSK3βが膠芽腫において高発現し、腫瘍細胞の増殖能を亢進させることを報告し、GSK3βを標的とした再発膠芽腫に対する第I・II相臨床試験を遂行している。今回、GSK3βの膠芽腫浸潤への関与を検討した。【方法】グリオーマ細胞株(U87, T98G, U251, A172) をGSK3βの特異的阻害剤で処理し浸潤能と浸潤関連シグナル伝達の変化を解析した。【結果】GSK3β阻害によりすべてのグリオーマ細胞株の遊走・浸潤能は低下した。細胞形態を観察するとGSK3β阻害により細胞遊走に必須である細胞膜のlamellipodiaの形成が抑制されていた。この現象からlamellipodia形成に働くsmall GTPase;Rac1の活性化を調べたところGSK3β阻害により低下していた。またRac1の活性化分子であるguanine nucleotide exchange factors (GEFs)ファミリー分子のうちDock180, SWAP-70, ELMO1, TrioがGSK3β阻害と連動して発現が低下していた。さらに、Rac1周辺の浸潤関連分子の検索によりGSK3βはFAK/Rac1/JNK/MMP2経路により浸潤を制御していた。【結論】GSK3βはFAK/Rac1/JNK/MMP2から構成される遊走シグナル伝達経路を活性化し膠芽腫細胞の浸潤を促進することを明らかにした。GSK3βは膠芽腫の浸潤を規定する重要な分子であり、膠芽腫に対する有用な標的分子であることが確認された。
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