研究課題/領域番号 |
23592129
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
高橋 寿明 愛媛大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (20363228)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 膠芽腫 / 血管新生 / 浸潤 / Oct-3/4 |
研究概要 |
膠芽腫を含む各種固形腫瘍において幹細胞性の維持に必須の転写因子であるOct-3/4の発現上昇が確認されているが、腫瘍形成・増大過程における役割については未だ不明な点が多い。H23年度は膠芽腫の腫瘍形成過程におけるOct-3/4の関与について検討した。ヒト膠芽腫細胞株(U251MG)にOct-3/4遺伝子を過剰発現させた細胞株を樹立し、同細胞と親株細胞を用いて膠芽腫マウス皮下移植モデルを作成し、2ヶ月後に形成された腫瘍を摘出し病理的な解析を行った。腫瘍内の新生血管の状況は免疫組織学的に検討し、血管新生因子の発現についてはRT-PCRやELISA法により評価した。Oct-3/4発現細胞株では、移植8週後の時点で親株細胞に比べて約10倍の体積を持つ腫瘍を形成した。また親株細胞由来の腫瘍で認められる広範囲な壊死領域に対し、Oct-3/4発現細胞由来の腫瘍では壊死領域はわずか20%程度であった。U251MG/Oct-3/4由来の腫瘍ではCD34陽性の新生血管が多数誘導されており、血管新生因子であるVEGFやHGF mRNAの発現および培養上清中のVEGFやHGFの分泌も親株細胞に比べ亢進していた。さらに、Oct-3/4発現細胞の培養上清を用いたin vitroラット腹部大動脈3次元コラーゲン培養法において多数の新生血管が誘導される様子が確認できた。一方、Oct-3/4発現細胞の遊走能・浸潤能は親株細胞と比較して有意に亢進しており、インテグリンやマトリックスメタロプロテアーゼ-13(MMP-13)の発現および活性上昇が認められた。以上よりOct-3/4陽性の膠芽腫細胞は高い浸潤能により脳内を広範囲に浸潤し、さらには浸潤先において血管新生を積極的に誘導することで、膠芽腫の腫瘍増大に関与している可能性が考えられた。現在Oct-3/4による血管新生誘導機構の解明を目指し研究を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H23年度はグリオーマ浸潤におけるOct-3/4陽性細胞の動態を解析することが主目的であった。その点に関してはOct-3/4が細胞接着分子や細胞外マトリックス分解酵素の発現を誘導する事で、遊走能・浸潤能が亢進する事を明らかにすることができ、国際誌に報告した(Kobayashi et al., J Cell Biochem. 113, 508-517, 2012)。血管新生に対するOct-3/4の影響についても、血管新生因子(特にVEGF)の発現を亢進する事で、腫瘍血管新生に積極的に関与する事を明らかにする事が出来た。この様に、来年度以降のin vivoでのイメージング解析に向けた基礎的なデーターを得ることが出来たということから、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)Oct-3/4プロモーター下で緑色蛍光(Oct-3/4-GFP)を発現するプラスミドを遺伝子導入したグリオーマ細胞を樹立し、免疫不全マウスの脳内に移植する。移植後、動物用MRI(核磁気共鳴画像装置)を用いて腫瘍形成を観察するとともに、病理組織解析を行い、腫瘍組織内でのOct-3/4-GFP陽性細胞の局在や血管との関係を詳細に検討する。(2)血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の誘導は低酸素誘導因子(HIF-1)を介していると考えられる。HIF-1をshRNAでノックダウンあるいはHIF-1阻害剤を用いて、Oct-3/4との関係を明らかにし、分子基盤を解明していく。またOct-3/4ノックダウン細胞も樹立し、腫瘍形成や腫瘍血管新生に与える影響をin vitro、in vivoの両面から解析していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
設備備品等は全て所属研究機関の既存設備を使用するため、研究費は細胞培養関連試薬一式、実験動物、遺伝子工学用試薬、生化学研究用試薬、各種抗体購入費および成果発表費用(国内学会参加、外国語論文校正費用、論文印刷費等)として使用する。
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