研究課題/領域番号 |
23592132
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
河原 康一 九州大学, 生体防御医学研究所, 助教 (00400482)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 腫瘍化進展 / リボソーム蛋白質 / p53経路 / PICT1 / 細胞増殖 / 結合阻害化合物 |
研究概要 |
PICT1(GLTSCR2ともいう)はPTEN(phosphatase and tensin homolog)を安定化することから、がん抑制遺伝子であろうと考えられているが、 PICT1 が存在する染色体領域19q13を欠損する乏突起神経膠腫患者は、欠損しない同腫瘍患者より予後が良好である。PICT1の機能を明らかにするため、我々はPict1欠損マウスとPict1欠損胚性幹(ES)細胞を作製して以下の点を明らかにした。Pict1は胎児発生やES細胞の生存に不可欠な核小体タンパク質である。Pict1欠損は、DNA損傷がない場合にもがん抑制遺伝子p53依存性にG 1 期での細胞周期停止やアポトーシスを引き起こす。Pict1欠損細胞では、Mdm2のユビキチン化リガーゼ機能が低下して、p53が蓄積する。Pict1はリボソームたんぱく質L11(Rpl11)と結合するが、Pict1が欠損するとRpl11は核小体から遊離する。Pict1欠損細胞では、Rpl11とMdm2との結合が増加することによって、Mdm2によるp53のユビキチン化が抑制される。ヒトのがんの場合、PICT1の発現が弱い腫瘍を持つ患者はよりよい予後を示す。正常なP53シグナル伝達が見られる腫瘍細胞でPICT1の発現を抑制すると、細胞の増殖は遅くなり、P53が蓄積する。したがって、PICT1はMDM2-P53経路の強力な調節因子であり、RPL11を核小体に保持することにより腫瘍進展を促進する。以上の成果はNature Medicine誌論文報告を行った(Nature Med 17, 944-951,2011)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PICT1の発現抑制は腫瘍細胞の増殖を抑制し、PICT1発現低値のがん患者は生存期間の延長を認め予後良好となることを明らかにし、PICT1の発癌における役割を明示でき、これまでの研究成果とあわせNature Medicine誌に論文発表を行った。
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今後の研究の推進方策 |
PICT1の機能抑制すなわちPICT1とリボソームたんぱく質L11(RPL11)との結合を阻害することで、p53増加による腫瘍化進展を抑制できることが考えられたため、PICT1/RPL11結合阻害スクリーニング系の構築を行い、結合阻害化合物の探索することを計画している。具体的には、小麦胚芽のin vitro たんぱく質合成系によって組換えPICT1たんぱく質を、大腸菌でのたんぱく質発現系を用いて組換えRPL11たんぱく質を発現精製し、これらの蛋白質の結合をTR-FRET測定システムによって検討する。本方法によってPICT1/RPL11の結合が測定可能であることを示せれば、次にこの結合を阻害する薬剤を探索する。また、本薬剤スクリーニングによって効果がある化合物を得ることができなかった場合は、理化学研究所と共同でPICT1/RPL11たんぱく質の結晶構造解析を行い、結合部位の構造を明らかにする。これによって、結合部位に入り込む薬剤を設計しその結合阻害活性を検討する。これらの検討によって得られた化合物は、がん細胞に添加することでin vitroでの細胞増殖抑制効果を、さらに発癌モデルマウスにに投与することでin vivoでの腫瘍化進展抑制に作用するかを検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
試薬類・酵素(550千円)/動物麻酔薬、ホルマリン、パラフィン、制限酵素、遺伝子導入試薬、プライマー、細胞培養液、抗生物質、BSA、蛋白質マーカー、細菌培養液など、血清・抗体(250千円)/1本25千円x6本、抗体1本50千円 x 2本、プラスチック器具(200千円)/チップ・チューブ類100千円、培養ディッシュ100千円、マウス購入・飼育料 (150千円)/マウス購入費39千円(B6マウスなど)、マウス飼育飼料費111千円、国内旅費(50千円)/国内成果発表50 千円
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