研究課題
核小体ストレス応答経路はがん抑制因子p53を制御する新たな経路として注目されている。我々はリボソームタンパク質L11(RPL11)を核小体から核質への移行を制御する分子としてPICT1を新たに見出し、PICT1遺伝子欠損や発現の低下はp53を増加させ、腫瘍細胞の増殖や個体の腫瘍化進展を抑制する事、ヒト大腸がん、食道がん患者の予後の良好さと相関する事などを明らかにしてきた。本研究では、これまでの研究をさらに発展させ、ヒト肺がんにおける役割や、PICT1タンパク質の安定化制御機構について解析を行った。ヒト非小細胞性肺癌患者検体を用いて、PICT1のタンパク質の核小体及び細胞質の発現と臨床病理学的因子との相関を検討した。核小体PICT1タンパク質の発現量と、臨床病理学的因子との間には一定の相関は認められなかったが、細胞質にあるPICT1の発現量は、喫煙歴、分化度、リンパ節浸潤、病理学的ステージにおいて相関を示した。このことから、細胞質のPICT1タンパク質の発現は予後不良因子であり、リンパ節浸潤を介した腫瘍化進展に相関することを新たに明らかにした。一方、核小体ストレスを誘導するActinomycinD等の薬剤によってPICT1タンパク質は分解を受けることがわかっていたが、その機構はこれまで不明であった。生化学的な解析を行ったところ、PICT1はユビキチン非依存性のプロテアソーム依存性の経路によって分解を受けることを見出した。PICT1の発現低下はRPL11を核小体から放出させ、p53の増加を導くことで、核小体ストレス応答を誘導することから、PICT1は核小体内にあり、プロテアソーム依存性の分解経路を受けることで、核小体ストレスを感知し、ストレス応答を誘導する役割を持つこと考えられた。このように、様々なヒト癌においてPICT1が腫瘍化進展を抑制する重要な役割を持つこと、またPICT1分子が核小体ストレスを感知し、ストレス応答を起こす分子基盤を明らかにすることができた。
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The Journal of Biological Chemistry
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Oncoscience
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http://www.kufm.kagoshima-u.ac.jp/~moloncl2/