本研究の目的は神経性間欠跛行の臨床症状の特性をふまえた動物モデルを提案し、その妥当性を検証することである。前年度において神経性間欠跛行と判定できる現象を再現するため、異常感覚の指標となる腓腹神経の逆行性活動電位を記録できるシステムを構築した。そして臨床でみられる馬尾圧迫の増強とともに間欠跛行ときわめて類似したパターンの神経活動を誘発し、神経性間欠跛行の神経機序を再現したと判断した。本年度においては、この現象をもとに、神経性間欠跛行の機序の解明を進めた。特に馬尾圧迫の増強における馬尾血流動態の関与について注目した。本年度はラット54匹の追加実験を行った。シリコン片(2×1×4mm)を第3/4腰椎レベルの硬膜外腔に挿入して1週間経過した腰部脊柱管狭窄症モデルを用いた。尾側の馬尾血流変化をレーザードップラー装置、あるいは酸素濃度で計測すると、シリコンの圧迫の際に低下することが確認できた。発火閾値を検討すると、酸素濃度値自体よりも低下する速度ならびに酸素不足量の関与が大きかった。馬尾血流の動態の関与をさらに解析するため、シリコン圧迫の際に低酸素を同時に負荷すると、神経活動の変化が有意に増大した。一方、高酸素を同時に負荷した場合には、神経活動の変化が有意に抑制されることも改めて確認できた。 これらのことから、間欠跛行の発現には馬尾血流を介した酸素供給の要素が大きく関わっていることが推察できた。知覚神経の異常活動の起源となる部位と血流動態の関係であり、異所性発火の発現部位は狭窄部の馬尾軸索と後根神経節の可能性があり、いずれの部位も発火の起源と考えられた。また、神経性間欠跛行時に生ずる運動系の神経機能変化も確認でき、間欠跛行の病態への関与が強く推察された。
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