研究課題/領域番号 |
23592161
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
武内 恒成 新潟大学, 医歯学系, 准教授 (90206946)
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キーワード | 神経再生 / 神経発生 / 神経科学 / バイオマテリアル / 再生医療 / 核酸医薬 |
研究概要 |
脊髄損傷の治療に向けては、神経幹細胞やiPS細胞/ES細胞の移植による治療が謳われ多くの試みがなされつつある。しかし脊損後には、損傷炎症に続いて生じるコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)の発現上昇が神経の再生を阻害、その後損傷部のCavitationsを取り囲むように生じる線維性瘢痕が完全に神経再生をブロックしてしまう。この初期過程で、A):コンドロイチン硫酸(CS)は本当に神経再生を阻害しているのか? 再生阻害能はCSにあるのか? B):線維性瘢痕の形成は、CSの発現やグリア性瘢痕の形成と時間空間的にいかなる相関があるのか? さらに、C):再生治療に向けて、CSなどの抑制因子を人為的にいかに制御すべきか、を明らかにすることは脊髄損傷治療において非常に重要である。しかしながら、基礎レベルでの解析においてもこれら根本となる部分について、未解明な点が未だ多い。 申請者は最近、CS転移酵素の遺伝子欠損マウスの樹立に成功し、このマウス脊髄損傷モデルから、CSそのものが果たして真に再生阻害因子であるか また、阻害分子メカニズムの解明を進めている。さらに脊髄損傷治療と臨床応用へ向け、CSの阻害環境要因を人為的に制御し、移植幹細胞を効果的に損傷部に保持するバイオマテリアルを用いた再生研究と治療材料としての開発を目的とする。 これまでの上記A)B)の解析を進め、CS発現KOマウスでは劇的な損傷後修復を示すこと、およびそのメカニズムの解明を進めてきた。これを踏まえ昨年度からは新規バイオマテリアルを用いたノックダウンを進め、KOマウスと同等レベルまでの損傷後回復を導くことを可能とした。RNAiを用いた核酸医薬のデリバリーシステムとしても有効な手段であること、またさらに我々が対象としているCS転移酵素のさらに制御系をノックダウンすることによっても回復を示すことまで示しつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究開始当初の計画では、遺伝子欠損マウスでの解析を踏まえてバイオマテリアルを用いた組織部位特異的(脊髄損傷部特異的)ノックダウンを計画した。まず一昨年度、遺伝子欠損マウスでの脊髄損傷後修復が、我々の当初想定以上に回復を示し、その機能メカニズムを解析する中で、グリコサミノグリカン転移酵素遺伝子群の網羅的解析を集中的に続けた。また、昨年度バイオマテリアルを用いた機能回復実験を進める中で、ノックアウトマウスでの想定以上の回復効果を示していたこと、さらにそのメカニズムが網羅的発現解析からある程度つかめていたこともあり、RNAiによる遺伝子ノックダウンによってマウスの損傷後修復を示すことができ、当初計画以上の進展を見せた。当初はアデノウイルスなどの強制発現系を用いる予定であったが、これを用いずしても人為的な遺伝子制御が可能となった。回復のメカニズムを一昨年に徹底して検討した成果もありこれまでに当初計画を超えた成果をあげることができている。 これらを踏まえてさらにCSを含むグリコサミノグリカン遺伝子の発現制御メカニズムにも当該研究課題期間中に踏み込めることとなった。
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今後の研究の推進方策 |
脊髄損傷修復・神経再生に対して阻害効果を持つとされるCSPG機能の研究と、この発現を制御する臨床応用を目指した遺伝子制御による研究を両輪としてさらに展開する。とくに昨年度までに我々のコンドロイチン硫酸基(CS)転移酵素ノックアウトマウスを用い直接的に解明してきた損傷後修復のメカニズムをまとめて公表するとともに、この基礎解析を踏まえた損傷修復治療に向けての高機能新素材絹スポンジを用いたコンドロイチン硫酸の発現制御をさらに確実なものとすることと、移植細胞保持(移植幹細胞を損傷領域に如何に留めおくか)を本研究期間内で完了する。 生体内遺伝子制御(RNAiによる組織部位特異的ノックダウン)システムが、われわれの脊髄損傷後修復に非常によく稼働したが、このシステムをさらに検討し、生体内で他の炎症系などの誘発はないか、安全性は大丈夫か、現在短期間の解析だけであるが長期留置の影響は、などを本年度中に検証し、特許化と公開を急ぐ。 また、この遺伝子ノックダウン系が可能となったことで、CSを含むグリコサミノグリカンの発現制御メカニズムおよびこれらの転移酵素の神経損傷などの急性期での発現制御系の解析が可能となった。 これまでにこれら遺伝子群の網羅的発現はすでに解析を済ませたが、その上位にある転写制御因子も標的に入れ損傷後にこれら転写因子の発現抑制を遺伝子ノックダウン系を駆使して、in vivoで探る計画をした。これらにより、CS転移酵素の発現制御メカニズムを直接的に解析することが可能となる。さらにはこれらの発現制御系を人為的に制御することでさらに効果のある治療系への糸口がつかめるかもしれない。
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次年度の研究費の使用計画 |
さらにマウスを用いた解析のため、動物維持管理費とともに動物実験のためのさまざまな消耗品を計上する。また遺伝子解析のための分子生物学的試薬類や細胞移植のためのシステムの消耗品費(培養・生化学系試薬)を必要とする。 また、今年度はこれまでの成果発表のための論文投稿および学会参加費、さらには遺伝子解析のための研究打ち合わせ費用を計上している。
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