研究概要 |
活性酸素種(Reactive Oxygen Species; ROS)が脊髄損傷後疼痛などに代表される難治性神経障害性疼痛の発症に脊髄後角レベルで関与していると仮説を立て、ラット脊髄スライスを用いたブラインドパッチクランプ法及びin vivo パッチクランプ法を適用し、電気生理学的な解析を行った。膜電位固定下(-70 mV)、脊髄後角第II層で記録を行った。その結果、ROS donorであるtert-butylhydroperoxide (t-BOOH)を脊髄に灌流投与すると脊髄スライス及びin vivo 標本においても脊髄後角細胞の興奮性シナプス後電流(EPSC)の著しい増強を認めた。さらにこの増強効果はROSが一次求心性神経終末部に作用し、神経伝達物質のグルタミン酸放出を強めることによることが判明した。ROSによる脊髄後角細胞の過剰興奮に対してROS scavengerであるPBNやNACをそれぞれt-BOOHと同時に灌流投与したところ、PBN,NAC存在下ではROSの興奮性増強作用は抑制された。さらにROSが一次求心性神経終末部のどのようなイオンチャネルに作用するか脊髄スライスにパッチクランプ法で薬理学的に解析したところ、TRPA1受容体受容体拮抗薬のHC-030031やTRPV1受容体拮抗薬のCapsazepine, AMG9810存在下では有意に抑制されることを確認した。以上のことから、ROSは一次求心性神経の中枢末端に存在するTRPA1やTRPV1を活性化させることで、興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸の放出を増強し、痛覚情報を増強させていることが判明した。このようにROSによる脊髄後角細胞の過剰興奮が持続すると神経可塑的変化が起こり、末梢神経損傷性疼痛や脊髄損傷後疼痛などに代表される神経障害性疼痛が脊髄後角レベルにおいて発症する可能性がある.
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