進行性骨化性繊維異形成症(FOP)は、骨形成因子BMPの受容体ALK2の遺伝子変異が原因となって、骨格筋が骨組織に置き換わってしまうという特異な優性遺伝病である。FOP型変異ALK2をマウス筋前駆細胞Ric10に発現させたところ、骨分化マーカーであるアルカリ性フォスファターゼ(ALP)の発現は、きわめて低く、FOPの発症機序は、遺伝子変異だけでは説明できなかった。そこで、FOP型変異ALK2発現Ric10細胞を、炎症性サイトカインIL6で刺激したところ、ALP発現レベルは、著しく増大し、骨分化が誘導された。 Ric10を閾値以下のBMP2(10 ng/ml)単独で刺激しても、骨分化は誘導されなかったが、さらにIL6刺激を加算すると、骨分化が誘導された。また、IL6の下流で活性化される転写因子STAT3の阻害剤を作用させると、閾値以下のBMP2存在下における「IL6依存的骨分化誘導」は、抑制された。 In vivoにおいて、FOP変異型ALK2遺伝子を発現する筋前駆細胞がIL6依存的に骨分化するか否かを検証するため、FOP変異型ALK2遺伝子を恒常的に発現する筋前駆細胞株の樹立を試みたが成功せず、ALK2の過剰発現は、マウス筋前駆細胞の機能を破綻させることが示唆された。 本研究の結果、IL6は、筋前駆細胞に作用すると、下流因子STAT3の活性化を介してFOP型変異ALK2による微弱なSmadシグナルを増幅し、異所性の骨分化を誘導するものと考えられる。我々は、筋前駆細胞のALK2/Smadシグナル系の応答性が、ヒトとマウスでは異なっていることを見いだしている。FOPの発症機構を解明するうえで、ヒト筋細胞固有の性質を明らかにすることは、今後のきわめて重要な課題である。
|