研究課題/領域番号 |
23592183
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
松峯 昭彦 三重大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (00335118)
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研究分担者 |
淺沼 邦洋 三重大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (20378285)
松原 孝夫 三重大学, 医学部附属病院, 助教 (30422827)
中村 知樹 三重大学, 医学部附属病院, 助教 (50467362)
豊田 秀実 三重大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (60525327)
駒田 美弘 三重大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (80186791)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | ポリオウイルス / 悪性骨軟部腫瘍 / 細胞融解療法 / CD155 |
研究概要 |
近年、悪性骨軟部腫瘍の治療成績は、集学的治療法の進歩により大きく改善してきたが、難治性の悪性骨軟部腫瘍は依然予後不良である。我々は弱毒化ポリオウイルス(以下PV)を用いた細胞融解療法の開発を計画した。PVは小児麻痺の原因ウイルスで、ポリオウイルスレセプター (以下CD155)を介して脊髄の前角細胞に感染し運動神経麻痺を発症する。研究分担者の豊田は、PVがCD155を発現する神経芽腫に対して強い抗腫瘍効果を有していることを報告し、PVによる神経芽腫の治療体系を構築している。我々は、予備実験において、悪性骨軟部腫瘍にはCD155が高発現するものがあることを確認した。そこで、今年度は、さらに多くの肉腫培養細胞株を用いてCD155の発現を検討するとともに、細胞死が誘導されるかどうかを検討した。 その結果、1)ヒト肉腫細胞株(骨肉腫:HOS,HuO9,Saos2,143B軟部肉腫:HT1080, MFH-ino,NMS-2, HS-PSS,HS-Sch-2, HS-SYII)におけるCD155の発現をreal time PCR, Western blottingで検討したところ、すべての細胞株で、mRNAレベル、タンパクレベルでのCD155の発現を認めた。2) 各肉腫細胞株にin vitroでPV(Sabin株1型)を感染させ抗腫瘍効果をMTS assayで検証したところ、全細胞株で時間依存・用量依存的な殺細胞効果を認めた。3)PV感染後カスパーゼ3/7が活性化することを確認した。 骨軟部肉腫において、全ての骨軟部腫瘍細胞株でCD155の発現を認め、in vitroでのPVによる抗腫瘍効果を確認できた。PVは、すでに経口生ポリオワクチンとして日常臨床的に応用されており安全性が確立されており、肉腫治療への臨床応用に期待を持つことができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CD155はpoliovirusの感染に必須のレセプターであるが、近年、CD155を高発現する神経芽腫での弱毒ポリオ生ワクチン(PV)による抗腫瘍効果が報告されている。我々は、PVの肉腫における抗腫瘍効果を検討した。その結果、1)ヒト肉腫細胞株(骨肉腫:HOS,HuO9,Saos2,143B軟部肉腫:HT1080, MFH-ino,NMS-2, HS-PSS,HS-Sch-2, HS-SYII)におけるCD155の発現をreal time PCR, Western blottingで検討したところ、すべての細胞株で、mRNAレベル、タンパクレベルでのCD155の発現を認め、2) 各肉腫細胞株にin vitroでPV(Sabin株1型)を感染させ抗腫瘍効果をMTS assayで検証したところ、全細胞株で時間依存・用量依存的な殺細胞効果を認め、3)PV感染後カスパーゼ3/7が活性化することを確認した。これらの事柄は、当初の仮説を支持するものであり、研究は非常に順調に進展していると考えている。また、現在、実験途上であるが、in vivoの系でも、PVは強力な抗腫瘍効果を有していることが明らかとなりつつある。 さらに、これらの新しい事実を、日本整形外科学会骨軟部腫瘍学術集会、日本整形外科学会基礎学術集会で報告し、大きな反響を得ることができた。さらに、現在までの研究結果を欧文誌に投稿中であり、当初の計画通りほぼ達成できていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として、まず、悪性骨軟部腫瘍におけるCD155発現の検討をさらに詳細に行う必要がある。患者から採取した臨床サンプルにおけるCD155の発現をリアルタイムRT-PCR法、RT-PCR法, イムノブロッティング法、免疫組織化学的染色法を用いて、さらに詳細かつ大規模に検討する。次に、ヌードマウスを用いたin vivoでの抗腫瘍効果の検討を行う。ヌードマウスに移植したヒトCD155発現肉腫にPV (Sabin株)を腫瘍内投与することによりPVの抗腫瘍効果を検討する。対照はPBS投与群とする。抗腫瘍効果の判定は、腫瘍サイズを定期的に測定することで判定する。マウスの死後摘出した腫瘍組織は病理組織学的に検討する。またPV投与によるマウスの生存率の改善を検討するために、PBS投与群、PV投与群との間の生存率の相違を検定する。さらに PVによる細胞融解療法の安全性の検討を行う。マウスはCD155遺伝子を持たないためPVの感染が成立せず、PVの神経毒性の評価が困難である。そこで、A/Jマウス由来の悪性線維性組織球腫細胞株(MuSS:RIKEN CELL BANKより購入済)にCD155を発現させたMuSSCD155 を作成し、これをCD155トランスジェニックA/Jマウス(CD155tgA/Jマウス)(研究分担者の豊田がすでに作成)に移植し、PVの抗腫瘍効果だけでなく副作用の評価を行う予定である。この実験系は、幼児期に基礎免疫をつけたヒトに発生したCD155発現軟部肉腫に対するPV感染が本当に抗腫瘍効果を持つのかどうかを検証できるとともに、PVの神経毒の評価が可能となるので必要な研究である。脊髄前角細胞や脳でのPVの存在の有無を評価する必要もある。
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次年度の研究費の使用計画 |
まず、悪性骨軟部腫瘍におけるCD155発現の検討をさらに詳細に行う必要がある。患者から採取した臨床サンプルにおけるCD155の発現をリアルタイムRT-PCR法、RT-PCR法, イムノブロッティング法、免疫組織化学的染色法を用いて、さらに詳細かつ大規模に検討する。そのためにはPCR用の大量の試薬を購入する必要がある。研究費の一部をその試薬購入費に充てる次に、ヌードマウスを用いたin vivoでの抗腫瘍効果の検討を行う。ヌードマウスに移植したヒトCD155発現肉腫にPV (Sabin株)を腫瘍内投与することによりPVの抗腫瘍効果を検討する。対照はPBS投与群とする。抗腫瘍効果の判定は、腫瘍サイズを定期的に測定することで判定する。マウスの死後摘出した腫瘍組織は病理組織学的に検討する。またPV投与によるマウスの生存率の改善を検討するために、PBS投与群、PV投与群との間の生存率の相違を検定する。この研究を遂行するためには約100匹のヌードマウスの購入が必要であり、研究費の一部をその購入費に充てる。また、マウス飼育のための餌代や消耗品代にも研究費を使用する。もし、研究がスムーズに進行した場合には、PVによる細胞融解療法の安全性の検討を1年前倒しに行うことを考えている。 CD155トランスジェニックA/Jマウスを用いた実験が必要であり、マウス飼育のための餌代、消耗品代として研究費の一部を使用する。さらに、上記の研究により得た研究データーは、日本整形外科学会や日本癌学会で報告する予定にしており、学会参加のための旅費として使用することも考えている。また、欧文誌投稿の際に、投稿費として使用することも想定している。
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