研究課題/領域番号 |
23592196
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研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
村田 博昭 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 客員講師 (90360031)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | ビスホスフォネート / 軟部肉腫 / 放射線治療 / アポトーシス / 骨肉腫 |
研究概要 |
われわれは既に骨肉腫細胞株に対する放射線とビスホスフォネート の併用効果を報告した。同様の方法で軟部肉腫細胞株に対する抗腫瘍効果について検討を行うために細胞株として線維肉腫細胞株を用いた。まず最も併用効果の高い治療効果を得るための具体的な放射線照射量とビスホスフォネートの投与量ならびに暴露方法(順序、投与時間)について検討した。結果としてはビスホスフォネート投与後24時間後に低線量の放射線照射を行うのが効率の良い治療方法であることが判明した。細胞死に至る原因としてアポトーシスの誘導について検討した。caspase 3,9のclevageの増加、caspse 8の低下、Sub-G1期の細胞比率の増加を示し、caspase inhibitorによって抑制されたことより併用療法によりアポトーシスを強く誘導したと考えた。次に、細胞生存シグナル経路の活性化としてPI3K-AKT経路とMEK-ERK経路が放射線照射により影響を受けることが報告されていることから併用療法がこれらの経路に対してどのように影響するかを検討した。放射線は細胞を死滅させる効果がある反面、細胞の生存を促進する細胞生存シグナル経路の活性に影響を与えることにより抗腫瘍効果を抑制してしまう可能性がある。今回の研究でビスホスフォネートを投与することで放射線応答シグナルに関与する蛋白のリン酸化(AKT,ERK)を抑えることができた。このようにビスホスフォネートがシグナルに関与する蛋白のリン酸化を抑制することで抗腫瘍効果が増強されていると考えられ、この点がビスホスフォネートと放射線との併用効果の機序の一つであると考えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ビスホスフォネートと放射線療法の併用効果の検討についてはおおむね計画通り進み結果も得られている。もう一つのテーマであるビスホスフォネート含有徐放剤を用いた骨軟部肉腫、癌腫に対する抗腫瘍効果の検討については現在実験設定条件を変えながら検討中であり最終的な結果はまだ導けていない状況である。
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今後の研究の推進方策 |
骨軟部肉腫細胞株に対するビスホスフォネートと放射線の併用効果の検討をさらに進める。放射線療法は殺細胞効果のみならず、NFκB の転写を活性化し、放射線応答として抗アポトーシス関連タンパクの発現を亢進させる。一方、ビスホスフォネートは低分子G タンパクのプレニル化を抑制することでMAPK やPI3K/AKT pathway を抑制し、その下流にあるNFκB の転写活性を抑制する可能性がある。このことから放射線療法とN-BPs の併用療法は、強力な抗腫瘍効果を示す可能性がある。さらに、放射線による細胞死の主たる要因として細胞内活性酸素種(ROS)の発生が知られているが、ビスホスフォネート により相乗的にROS 産生が亢進するか否かについても検討する。ビスホスフォネートによる抗腫瘍効果を高める方法として局所濃度を高めるためにビスホスフォネート含有徐放剤を用いて相乗的な抗腫瘍効果を検討する。徐放剤として、骨セメント(発熱性/非発熱性)、ハイドロキシアパタイト(HA)、ゼラチン粒子を用いる。ビスホスフォネートをこれらに含有させ、まずin vitro での抗腫瘍効果を検討する。対象とする細胞は骨軟部腫瘍のみならず癌腫など様々な悪性腫瘍に対しても検討する予定である。特に癌腫に対して効果が判明すれば転移性骨腫瘍に対する局所治療としても有効となると考える。さらに、ビスホスフォネート含有徐放剤と放射線の併用することによりより強い抗腫瘍効果を検討し、局所のならず転移巣への抗腫瘍効果の影響を検討していく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
放射線応答としての抗アポトーシス効果に対するビスホスフォネートの効果を検討するため、放射線によるNFκB の転写活性、NFκB のeffecter gene であるBcl ファミリー等抗アポトーシス関連遺伝子をN-BPs が抑制できるか検討する。ビスホスフォネートによるNFκB の転写活性抑制効果をluciferase reporter assay、タンパク解析をWestern blot 法、mRNA 解析をPCR 法等で検討する。また、放射線による細胞死はROS が大きく関与していることも報告されており、細胞内活性酸素種発生に対するビスホスフォネートの影響について、細胞内活性酸素種により特異的に発色するDCFH-DA 等を用いてフローサイトメトリーで検討する。ビスホスフォネート含有徐放剤を用いた骨軟部肉腫、癌腫に対する抗腫瘍効果に関する研究では、含有する材料としてはハイドロキシアパタイト(HA)、2 種類の骨セメント(硬化時に発熱有、無)、ゼラチン粒子を用い、ビスホスフォネートを様々な濃度で上記材料に各々含有させたものを作製し、細胞株(骨肉腫、軟部肉腫、癌細胞株(肺、腎))に対する増殖抑制効果、殺細胞効果、細胞周期、アポトーシス関連タンパクの変化を解析する。さらにこれらの効果を実験動物を用いてin vivoで検討を行う予定である。以上の実験に対して実験器材、試薬、抗体、実験動物などの購入費として使用する予定である。また、研究成果の発表と、英語論文作成のための支出としても研究費の使用を予定している。
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