研究課題/領域番号 |
23592198
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
面川 庄平 奈良県立医科大学, 医学部, 准教授 (70597103)
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研究分担者 |
田中 康仁 奈良県立医科大学, 医学部, 教授 (30316070)
赤羽 学 奈良県立医科大学, 医学部, 准教授 (40326327)
和田 卓郎 札幌医科大学, 公私立大学の部局等, 教授 (00244369)
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キーワード | 骨芽細胞シート / 偽関節 / 骨折 / 間葉系幹細胞 |
研究概要 |
骨折偽関節に対して各種治療法の有用性が実験的に証明されている。それらの多くは偽関節モデルに対する各種アプローチの有用性検証である。しかしながら、骨折部周囲の軟部組織の状態が良好である従来の偽関節モデルに対し、実際の臨床では、偽関節部周囲の軟部組織の著しい癒着や瘢痕形成が観察され、さらに関節近傍の骨折ではしばしば関節拘縮を合併する。また、偽関節周辺の骨形成能は著しく損なわれており、偽関節部の骨癒合を獲得することは困難である。偽関節手術において偽関節周囲の瘢痕組織を広範囲に掻把することは、さらなる癒着や瘢痕形成を引き起こすことがあり臨床的問題となる。 本研究では、骨芽細胞シートが偽関節モデルに対して骨癒合を促すのに十分な骨形成能を付与することが可能であることを証明してきた。さらに付帯的な研究として、骨芽細胞シートの凍結保存や、壊死骨に対する骨芽細胞シートの有用性についても検証してきた。本研究の最終目標は、臨床でみられる関節の拘縮を伴うような陳旧性偽関節に近似した実験モデルにおいて、さらなる関節拘縮の発生を予防し、骨癒合を獲得可能である治療を確立することである。具体的には、①血管柄付き筋膜脂肪組織と骨芽細胞シートを融合させることによって、偽関節部の骨癒合に加えて、周囲の関節拘縮が予防可能であるかを検討すること、②陳旧性偽関節において、従来の移植方法とは異なる注入法で移植を行うことで周囲軟部組織への侵襲を軽減し、皮弁移植を用いることなく関節拘縮を予防できるかを検討することである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は、偽関節モデルにおいて骨芽細胞シートが十分な骨形成能を付与することが可能であることを証明した(実験1)。さらにコントロール群ではみられなかった骨癒合と力学強度の増大を証明することができた(実験2)。以下にその概要を述べる。 【実験1】(方法)11~14週齢のFischer344ラットの右大腿骨中央を骨切りした後、骨折部の処置の異なる二群(各群n=40)を作製した。大腿骨転子部から顆部に至る筋群を剥離後、骨膜を全周性に切除し、さらに骨髄を十分に掻爬したものを剥離群とした。骨膜・大腿骨骨髄を温存し、骨切りのみ施行したものを対照群とした。両群ともK-wire(径0.8mm)で髄内釘固定を行った。術後2、4、6、8、12週で、X線、組織像、力学試験を用いて評価した。(結果)剥離群では、X線画像で仮骨形成を認めるものの、術後12週まで骨癒合を認めなかった。組織像でも骨折部の架橋形成を認めず、骨折部には線維性組織が介在した。対照群ではX線画像で術後2週から旺盛な仮骨形成を認め、12週までに全例で骨癒合を認めた。組織像でも骨折部のリモデリングを認めた。力学試験においても両群で有意差を認めた。 【実験2】(方法)骨芽細胞シートは、7週齢Fischer344 ラットの大腿骨から採取した骨髄由来の間葉系幹細胞を初期培養し、デキサメサゾン(10nM)、アスコルビン酸(82μg/ml)を添加した培地で二次培養することで作製した。実験1の剥離群モデルに対して、骨芽細胞シートを直視下に移植した。偽関節の治癒過程をX線画像、μCT、組織像、力学試験を用いて評価した。(結果)X線画像、μCT、組織像で偽関節部の良好な骨形成を認め、術後12週で全例骨癒合を認め、力学試験で骨強度の増大を認めた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度以降の目的として、以下の2段階を設定している。①陳旧性偽関節モデルにおいて、血管柄付き筋膜脂肪組織と骨芽細胞シートを融合させることによって、偽関節部の骨癒合に加えて、周囲の関節拘縮を予防可能であるかを検討すること、②陳旧性偽関節モデルにおいて、従来の移植方法とは異なる注入法で移植を行うことで、周囲の軟部組織への侵襲を軽減し、血管柄付き筋膜脂肪組織などの皮弁移植を用いることなく関節拘縮を予防できるかを検討することである。具体的には、①11~14週齢のFischer344ラットを使用する。大腿骨中央部に陳旧性偽関節を作製し、膝関節の他動可動域を脛骨に5Nを負荷するにより計測する。偽関節部を切開し、骨芽細胞シートと血管柄付き筋膜脂肪組織を移植する。骨芽細胞シートは、7週齢Fischer344 ラットの大腿骨から採取した骨髄由来の間葉系幹細胞を初期培養し、デキサメサゾン(10nM)、アスコルビン酸(82μg/ml)を添加した培地で二次培養することで作製する。継時的にX線画像、μCT、組織像、力学試験を用いて評価する。さらに膝関節の可動域計測を経時的に行う。②11~14週齢のFischer344ラットを使用する。骨芽細胞シートを偽関節部切開を行わずに注入移植する。①と同様に、継時的な偽関節の治癒過程をX線画像、μCT、組織像、力学試験を用いて評価し、①データと比較検定する。膝関節の可動域計測を経時的に行い、①データと比較する。
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次年度の研究費の使用計画 |
実験動物(ラット)を使用する。付随する実験器具(ピペッタ―等培養器具、実験用手術器具、手術用ドリル髄内釘一式)や消耗品(細胞培養液、細胞培養皿、注射器・シリンジ、ピペット・チップ等、麻酔薬・試薬等各種)が必要である。免疫組織化学染色に必要な器具、試薬が必要である。データ解析のための統計解析ソフトが必要である。学会発表のための旅費等が必要である。論文作成のための校正費用、投稿費用が必要である。
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