研究課題/領域番号 |
23592230
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
依田 昌樹 慶應義塾大学, 医学部, 特任助教 (30464994)
|
研究分担者 |
堀内 圭輔 慶應義塾大学, 医学部, 特任講師 (30327564)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 骨代謝 / シェディング / 発生・分化 / シグナル伝達 / 造血 / 免疫学 |
研究概要 |
骨のリモデリングにおいて骨吸収を担う破骨細胞は骨髄系細胞を経て分化することが知られている。血液系細胞ではリンパ球分化や造血幹細胞維持にNotchシグナル伝達の関与が示されているが、骨髄系細胞分化におけるNotchシグナルの関与は知見が乏しい。そこで平成23年度研究代表者らは骨髄系細胞分化におけるADAM10-Notchシグナル伝達に関して研究を進めるため、Mx1-CreマウスとADAM10 floxマウスを交配したcKO(A10/Mx1)マウスの解析を中心に行った。このA10/Mx1マウスは骨髄・脾臓中の造血幹細胞および骨髄系細胞の顕著な増加が観察され、A10/Mx1マウスにおける造血亢進は骨髄系細胞増加に起因することを示した。また脾臓においてNotch標的分子であるHes1、Hey1、Hey2発現の有意な減少が示され、この骨髄系細胞増加はNotchシグナル伝達抑制によるものと考えられた。さらにA10/Mx1マウスにおける血中サイトカインの定量的解析および骨髄移植の実験から、ADAM10を血液系細胞において欠損させた時は血中G-CSFの濃度は上昇せずG-CSF非依存的経路で骨髄系細胞が増加し、非血液細胞においてADAM10欠損させると血中G-CSF濃度が顕著に増加し骨髄系細胞の増加が生じることを明らかとした。以上から、通常ではADAM10-Notchシグナル伝達が正常に行われることにより非血液系細胞からのG-CSF産生が抑制され造血亢進は生じず、ADAM10が欠損した状態ではNotchシグナル伝達の低下によりG-CSF依存的・非依存的な造血亢進(骨髄系細胞の増加)が起こることを明らかとした。この結果は破骨細胞の分化系譜である骨髄系細胞の分化におけるADAM10-Notchシグナル伝達の重要性を示すものと考えている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はADAM10-Nocthシグナル伝達の骨代謝への関与を明らかにすることである。本年度、研究代表者らは破骨細胞前駆細胞も属している骨髄系細胞分化におけるADAM10-Notchシグナル伝達の関与を提示した。このことは、骨髄系細胞から分化する破骨細胞前駆細胞の骨髄中における細胞数・分化段階にも影響を与えている可能性を示唆するものである。さらに、骨髄微細環境中の非血液系細胞、血液系細胞におけるADAM10の不活性化により両方の場合で骨髄系細胞の増加を示し、原因としてそれぞれG-CSF依存的・非依存的経路が存在することを示した。通常、G-CSF依存的な造血亢進が生じると骨粗鬆症を呈することが過去の報告から示されているが、A10/Mx1マウスにおいては著しい骨粗鬆症は生じておらず(未発表)G-CSFだけでは説明がつかない事も明らかとなった。今後、このメカニズムの解明にも取り組んでいき骨粗鬆症治療の一端となることを期待している。以上から本年度の研究は、ADAM10-Notchシグナル伝達が骨髄系細胞分化を制御していることが明らかとなり、骨代謝のみならず血液系疾患への治療において生理学的に有用なデータを提示したと考え「おおむね順調に進展している」との自己評価を示した。
|
今後の研究の推進方策 |
現在までにA10/Mx1マウスにおいて成長軟骨板と骨梁の境界面における異常が組織学的に観察されており、平成24年度は引き続きA10/Mx1マウスの骨組織の詳細な解析(組織染色、骨形態計測、レントゲン解析)を進めていく。この解析により骨構造・骨動態を把握し、A10/Mx1マウスに観察されるリモデリングの異常が骨形成もしくは骨吸収に起因するかを精査する。また、A10/Mx1マウス骨髄中の破骨細胞前駆細胞および骨芽細胞の頻度・細胞数のFACS解析から、in vivoにおけるADAM10-Notchシグナル伝達の骨系細胞分化への影響を示す。さらに骨系細胞分化にADAM10-Notchシグナル伝達が直接的に関与しているかをin vitroのアッセイで評価する。A10/Mx1マウスから採取した骨髄細胞から破骨細胞分化誘導実験を行い破骨細胞の分化段階におけるNotch関連分子の発現解析を行う。また、骨髄中に存在する骨芽細胞画分についてもFACSを用いて分取しNotch関連分子の発現解析を試みる。培養細胞を用いた分化誘導実験(破骨細胞・骨芽細胞)ではsiRNAを使用しADAM10およびNotch関連分子の遺伝子ノックダウンが分化に及ぼす影響を検討する。また現在、より組織特異性の高いCreマウスとADAM10 floxマウスを交配しており破骨細胞特異的、骨芽細胞特異的なcKOマウスを作製中である。これらのcKOマウスの表現型解析およびin vitroの分化誘導実験からADAM10-Notchシグナル伝達がそれぞれ破骨細胞・骨芽細胞分化におよぼす影響を精査する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度はcKOマウスから分取した細胞および培養細胞における遺伝子・タンパク質発現解析に必要な酵素および抗体の購入を予定している。また、細胞分取用のFACS抗体、分化誘導実験に必要な培養器具・試薬類の購入も行う。培養細胞の遺伝子ノックダウンに使用するsiRNAおよび導入試薬の購入も必須であると考えている。また今後、組織特異的なADAM10欠損マウス作製し解析を行う計画なので、cKOマウスのジェノタイピング用試薬の購入が必要である。また分担研究者が行う骨形態計測解析は測定を外部委託により行っているのでその費用を含め分担金として適当であると考えている。平成23年度の未使用額の発生に関しては都合により学会参加を取りやめた結果によるものである。この未発生額は平成24年度以降の飼育動物の維持費にあてる予定である。
|