研究課題/領域番号 |
23592230
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
依田 昌樹 慶應義塾大学, 医学部, 特任助教 (30464994)
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研究分担者 |
堀内 圭輔 慶應義塾大学, 医学部, 特任講師 (30327564)
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キーワード | 骨代謝 / シェディング / シグナル伝達 / 発生・分化 / 造血 / 免疫学 |
研究概要 |
平成24年度はMx1-CreマウスとADAM10 floxマウスを交配したcKO(A10/Mx1)マウスの骨代謝領域における表現型解析を中心に行った。骨代謝機能を評価するために骨形態計測を行い、その結果から一次パラメーターでは骨梁幅と吸収面、二次パラメーターでは破骨細胞表面が有意に増加していることが確認され、骨吸収能を評価するパラメーターが有意に上昇していることが明らかとなった。次にA10/Mx1マウスにおける破骨細胞および骨芽細胞の性状を精査した結果、骨髄中に存在している破骨細胞前駆細胞数はA10/Mx1マウスにおいて有意に増加していた。さらに骨髄細胞から破骨細胞への分化誘導実験の結果から形成された破骨細胞数がA10/Mx1マウス骨髄細胞において有意に多いことが示された。この結果からA10/Mx1マウスにおいて骨髄中に存在する破骨細胞前駆細胞数が有意に増加していることが起因となり分化誘導実験による破骨細胞数増加につながったと考えられた。また、大腿骨、脛骨から骨髄細胞を除去し骨内膜に接着している骨芽細胞を含む細胞群からmRNAを抽出し、遺伝子発現解析を行った結果、Notchシグナルの標的分子であるHes1、Hey1、Hey2の発現がA10/Mx1マウスにおいて有意に減少していた。興味深いことに、骨芽細胞分化マーカーであるRunx2、Osterix、Osteocalcin、Collagen type1 alpha 1などの発現もA10/Mx1マウスにおいて有意に減少していた。 以上の結果はA10/Mx1マウスにおけるNotchシグナル伝達の低下は、骨吸収>骨形成を誘導する可能性を示唆するものである。しかしながら組織学的解析からA10/Mx1マウスは骨粗鬆症病態を示しておらず、詳細を明らかにするためにより組織特異性の高いcKOマウスの解析が重要な課題であると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度、研究代表者らはA10/Mx1マウスを使用し骨代謝に関与する細胞群(破骨細胞、骨芽細胞)の動態を精査した。骨形態計測から骨吸収パラメーターが亢進していることが示され、骨髄細胞からの破骨細胞分化誘導実験においてもA10/Mx1マウス骨髄の破骨細胞分化能が有意に高いことを示した。この原因としてA10/Mx1マウス骨髄中の破骨細胞前駆細胞数が有意に増加していたことを示した。また、骨膜内に接着している骨芽細胞を含む細胞群における遺伝子発現解析からNotchシグナルの標的遺伝子が低下していることを示し、さらに骨芽細胞分化マーカーの発現低下も明らかとした。この結果からAdam10欠損によるNotchシグナル伝達の低下が骨芽細胞分化を抑制している可能性が示唆された。これらの結果からA10Mx1マウスでは骨粗鬆症病態が期待されたが組織学的所見からは確認できなかったため、より組織特異性の高いcKOマウスの解析が必要だと考えられた。現在破骨細胞特異的、骨芽細胞特異的および軟骨細胞特異的にAdam10を欠損させたcKOの作製も順調であり解析準備中である。これら組織特異的なAdam10欠損マウスの解析から骨代謝におけるADAM10-Notchシグナル伝達の関与をより詳細に提示することが可能であると考えている。 また、本年度はADAMファミリー分子に属するAdam17過剰発現マウスの解析も並行して行い、ADAM分子の活性化機構の一つの仮説を提示した。これはADAM10分子の活性化機構においても関連性があると考えられ、ADAM10-Notchシグナル伝達の解明の一助となると考えている。 以上の結果から「おおむね順調に進展している」との自己評価を示した。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに骨芽細胞特異的、破骨細胞特異的および軟骨細胞特異的にAdam10を欠損させたcKOの作製が終了している。平成25年度はこれらのcKOマウスの表現型解析を中心に進めていく予定である。作製したcKOマウス骨組織の表現型解析(レントゲン解析、μCT解析、骨形態計測、組織染色)から生体内で骨形成および骨吸収の異常の有無を精査する。 また、in vitroの実験ではcKOマウスから骨髄細胞を採取し破骨細胞分化誘導実験を行い形態観察のほかNotchシグナル標的遺伝子の発現と破骨細胞分化マーカーの発現の相関性を検討する。またA10/Mx1マウス骨髄中では破骨細胞前駆細胞数が増加していたことから、骨髄細胞から分化させたマクロファージを破骨細胞前駆細胞として分化誘導実験を行うことで分化時に限定したADAM10-Notchシグナル伝達の関与を精査する。同様に骨芽細胞においてはcKOマウス新生仔の頭蓋骨から前骨芽細胞を採取し分化誘導実験を行い、分化マーカーの発現および機能分子(骨基質分泌能、破骨細胞支持能)の解析を行う。軟骨細胞もcKOマウス新生仔肋軟骨を採取し細胞塊培養を行い遺伝子発現およびタンパク質発現を解析する。 また、培養細胞もしくは野生型マウスから採取した細胞を用いてsiRNA導入によるAdam10およびNotch関連分子の遺伝子ノックダウンが分化へ与える影響を調べる。一方でcKOマウスから採取した細胞へのAdam10の強制発現実験で表現型の回復が認められるかどうか確認も行う。 さらに、本年度はそれぞれ得られた結果について精査し論文作成・投稿の予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は作製した組織特異性の高いcKOマウスの表現型解析が中心となるため、マウス維持のための飼育費およびジェノタイピング用試薬の購入が必要である。 平成24年度と同様にcKOマウスから分取した細胞の遺伝子・タンパク質発現解析に必要な酵素および抗体の購入を行う。分取した細胞の培養に必要な器具・試薬類および遺伝子ノックダウン実験に必要なsiRNA・導入試薬の購入も必須であると考えている。また、組織学的な解析のため必要な免疫染色用抗体の購入も考えている。 分担研究者への分担金は骨形態計測解析およびレントゲン解析に必要な経費として適当であると考えている。 また、研究成果発表のための学会参加費および論文作成・投稿に必要な経費として使用予定である。 平成24年度の未使用額の発生に関しては効率的な物品購入を行った結果であり、平成25年度の試薬購入にあてる予定である。
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