研究課題/領域番号 |
23592236
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研究機関 | 聖マリアンナ医科大学 |
研究代表者 |
遊道 和雄 聖マリアンナ医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (60272928)
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研究分担者 |
唐澤 里江 聖マリアンナ医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (50434410)
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キーワード | 軟骨細胞 / 変形性関節症 / 酸化ストレス / 核酸修復酵素 |
研究概要 |
関節に対する過度のメカニカルストレスは軟骨細胞活性の低下、軟骨基質の変性・破壊といった軟骨異化を惹起し、変形性関節症(Osteoarthritis, OA)の発症に関与する。しかし、その詳細な機序や外因性ストレスに対する細胞応答や防御機構については未解明な点も多く、治療法開発のためには、これらを詳らかのする必要がある。 予備試験および23年度の研究成果をもとに、OAの病因・病態について、メカニカルストレスに応答する軟骨細胞DNA損傷修復酵素活性の調節機構の解明と、対ストレス防御機構としての役割を解析するため、DNA損傷修復酵素OGG1の発現・活性の細胞内情報伝達路の網羅的解析を行なった。その結果、炎症などの実験的ストレス下における軟骨細胞のDNA損傷修復酵素活性化の経時的変化および関連酵素APEX2発現の誘導について、新たな知見が得られた。また、細胞内情報伝達路を網羅的解析法(プロテオミクス解析)により分析中であり、いくつかの候補因子の動態について追試を行なってきた。さらに、RNA干渉法を用いたOGG1欠損軟骨細胞および遺伝子導入によるOGG1過剰発現軟骨細胞を樹立し、各種ストレス条件下におけるこれらの細胞の細胞活性を比較分析し、メカニカルストレスに応答した軟骨細胞DNA修復酵素OGG1の細胞内情報伝達路を解析したところ、関節軟骨変性と関連するcatabolic factorにより誘導される軟骨異化がDNA修復酵素OGG1の活性により調整されていることを示唆する所見が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
変形性関節症の病因・病態におけるメカニカルストレスに対する細胞応答や防御機構については未解明な点が多い。そこで、本研究期間内にメカニカルストレスに対する「防御機構としての軟骨細胞ストレス応答の調節機構」と「細胞ストレス応答調節機構の変化・破綻がもたらす軟骨変性における意義」を明らかにするために、まず第一に軟骨細胞のメカニカルストレス応答機構・防御機構をDNA損傷修復酵素の観点から検証を行なった。その結果、変形性関節症の病因病態に関与する様々なストレスに応答する軟骨細胞DNA損傷修復酵素(OGG1, APEX2)の発現・活性の細胞内情報伝達路を解析し、ストレス応答の調節機構・防御機構としての役割を検証することができた。さらに、ストレス応答DNA修復酵素の調節機構の変化・破綻が軟骨変性の誘因となるか否かの検証を進めている。そこで、自然発症変形性関節症モデル動物(マウス)および関節靭帯切除による実験的変形性関節症モデル(ウサギ)の関節組織標本を用いて、関節軟骨変性度とDNA修復酵素OGG1およびAPEX2発現度を観察したところ、これらの因子の発現度と関節軟骨変性度との相関が明らかとなった。これらのことから、ストレスに応答するDNA修復酵素調節機構の変化が軟骨変性に影響することが示唆された。現在は、生命倫理委員会の承認の後、変形性関節症に対して人工関節置換術を行なった患者から文書による同意を得て採取した関節軟骨組織の変性度とOGG1およびAPEX2の発現度との関連を検討している。
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今後の研究の推進方策 |
我々は、メカニカルストレスに応答して軟骨細胞内のDNA修復酵素(OGG1等)の発現や活性は変化し、軟骨細胞内の防御機構として関節軟骨の恒常性維持に働くが、外因性ストレスに抗しきれなくなって機能が低下すると軟骨細胞活性の低下や細胞死などを惹起し、OA発症・増悪に関連するのではないかと考えている。我々の「メカニカルストレスによる軟骨細胞DNA損傷の発生機序とストレス応答機構およびOA病因・病態との関連」に関する本研究は、DNA損傷修復酵素OGG1の発現度は変形性関節症の軟骨組織変性度と相関して低下していること、変性軟骨部の細胞にはグアニン酸化体が高発現することを見出した我々の知見を基に展開するものである。すなわち、軟骨変性部においてはDNA酸化損傷の結果としてグアニン酸化体が高発現しており、これに相反してDNA損傷修復酵素OGG1活性は低下しているため、DNA損傷が蓄積して細胞死や軟骨組織の恒常性低下、軟骨変性につながっていくことが23~24年度の研究成果から示唆される。しかし、ストレスに対する細胞応答情報伝達路、ストレス応答調節機構、DNA修復酵素OGG1の生物学的機能ならびに、その活性低下の機序については今後のさらなる解析が必要である。 本研究では、これまでに我々がプロテオミクス解析で同定したストレス応答因子に関する研究成果をもとに、メカニカルストレスに対する軟骨細胞の応答、防御機構の観点からOAの病因・病態解析を行うもので、細胞機能解析・臨床プロテオミクス解析学の第一人者である連携研究者(加藤智啓)、また酸化ストレスに関する分子生物学及び病理学に精通した研究分担者(唐澤里江)らにより研究組織を構成し、協力体制をとることで、23年度、24年度の研究成果を基礎として、本申請課題の円滑な遂行を目指していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
1)DNA酸化損傷の検出: 培養実験系における軟骨細胞DNA酸化損傷の程度をグアニン酸化体(8-oxoguanine)の免疫染色ならびにin situ hybridazation法により解析する。特に変形性関節症の病因病態に関与する炎症因子等の各種条件下における軟骨細胞におけるDNA酸化損傷を8-oxoguanine発現度により検討する。 2) DNA損傷修復酵素の活性変化の検証: 上記細胞培養実験系を用いて、各種OAストレス培養条件下における軟骨細胞DNA損傷修復酵素(OGG1)の発現変化をRNA level (real-time PCR)及びProtein level (Western blotting)で検証する。 3)DNA損傷修復酵素OGG1の発現・活性の細胞内情報伝達路の解析: RNA干渉法を用いたOGG1欠損軟骨細胞および遺伝子導入によるOGG1過剰発現軟骨細胞を樹立し、各種ストレス条件下におけるこれらの細胞のリン酸化翻訳後修飾の網羅的解析を比較分析し、OGG1欠損軟骨細胞及びOGG1過剰発現細胞において、軟骨異化因子刺激下の軟骨細胞活性を解析してOGG1の防御的役割を検証する。さらに、OA患者から同意を得て採取し関節組織標本におけるOGG1発現度を免疫染色により解析を継続し、軟骨変性度(組織学的所見)や臨床所見等の臨床的背景との関連を分析する。
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