研究課題/領域番号 |
23592252
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
正田 丈裕 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (60335263)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | モルヒネ / オピオイド受容体 / T細胞 |
研究概要 |
モルヒネによる免疫抑制のメカニズムの一部はT細胞機能の変化によるものと考えられている。一方、T細胞受容体(TCR)が刺激されると、extracellular signal-regulated kinase(ERK)経路およびnuclear factor-κB(NF-κB)経路が活性化され、T細胞の増殖や機能に影響を及ぼすことが知られている。 ヒト末梢血から単離したCD3+T細胞およびヒトT細胞系培養細胞Jurkatを100μM塩酸モルヒネで24時間刺激した後、抗CD3抗体あるいはPMAおよびイオノマイシンによってTCRを活性化すると、モルヒネ前刺激がない場合に比較してERKのリン酸化が増強し、逆にIκBαのリン酸化は減弱することを示した。さらにモルヒネの前刺激により、TCR活性化によるinterleukin-2の遺伝子発現が減少することが明らかになった。また、これらの変化は、オピオイド受容体アンタゴニストであるナロキソンで拮抗できなかった。CD3+T細胞およびJurkatにはκオピオイド受容体(KOR)遺伝子が存在することをPCRによって明らかにしたが、KOR1の選択的アゴニストであるU50,488はモルヒネと同様の効果をもたらさなかった。以上の結果は、T細胞において、モルヒネの前刺激はERK経路の活性化およびNF-κB経路の抑制を引き起こすが、この効果はオピオイド受容体を介さないことを示唆する。今回得られた知見は、モルヒネの慢性投与がT細胞の機能変化を引き起こすメカニズムを説明する一つの証拠を提供する。以上の結果をまとめた論文を現在投稿中である。 交付申請書で記述した、KORのアミノ末端が切断されたスプライス変異体KOR4の解析の進捗が遅れているため、並行して行ったT細胞受容体細胞応答に対するモルヒネの効果についての研究について報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
申請書では1年目にKOR変異体KOR4の機能解析を行う予定であったが、KOR4の安定発現細胞株の作製がうまくいかず、計画どおりに研究が進捗しなかった。
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今後の研究の推進方策 |
我々はアミノ末端の細胞外領域から第1細胞膜貫通領域までを欠くKORのスプライス変異体遺伝子をJurkatからクローニングしているが、Jurkatにおけるそのタンパクの存在を(カルボキシ末端に対する抗体を使用して)ウェスタンブロット解析で検出できるかを検討する必要がある。 また、これまで成功していないが、KOR4遺伝子を培養細胞に安定発現させた細胞株を早急に作製し、その機能解析を進めたいと考えている。 さらに、ヘルパーT細胞Th2にμオピオイド受容体(MOR1)が発現している可能性についても、予定通り検討を開始したいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度と同様、試薬、抗体、細胞培養のための培地および血清、プラスチック器具等の消耗物品に大部分の出費をする予定である。 Th2細胞においてMOR1が存在するかどうかを検討するプロジェクトでは、健常ヒト血液提供者に対し謝金が発生する。また、血液からTh2細胞を抽出するキットにも出費をする予定である。
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