研究課題/領域番号 |
23592252
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
正田 丈裕 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (60335263)
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研究分担者 |
岡村 富夫 滋賀医科大学, 医学部, 教授 (70152337)
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キーワード | オピオイド受容体 / T細胞 / モルヒネ / 血管弛緩 |
研究概要 |
モルヒネによる免疫抑制のメカニズムの一部はT細胞機能の変化によるものと考えられている。一方、T細胞受容体(TCR)が刺激されると、extracellular signal-regulated kinase(ERK)経路およびnuclear factor-κB(NF-κB)経路が活性化され、T細胞の増殖や機能に影響を及ぼすことが知られている。 ヒト末梢血から単離したCD3+T細胞およびヒトT細胞系培養細胞Jurkatを100μM塩酸モルヒネで24時間刺激した後、抗CD3抗体あるいはPMAおよびイオノマイシンによってTCRを活性化すると、モルヒネ前刺激がない場合に比較してERKのリン酸化が増強し、逆にIκBαのリン酸化は減弱することを示した。さらにモルヒネの前刺激により、TCR活性化によるinterleukin-2の遺伝子発現が減少することが明らかになった。また、これらの変化は、オピオイド受容体アンタゴニストであるナロキソンで拮抗できなかった。CD3+T細胞およびJurkatにはκオピオイド受容体(KOR)遺伝子が存在することをPCRによって明らかにしたが、KOR1の選択的アゴニストであるU50,488はモルヒネと同様の効果をもたらさなかった。以上の結果は、T細胞において、モルヒネの前刺激はERK経路の活性化およびNF-κB経路の抑制を引き起こすが、この効果はオピオイド受容体を介さないことを示唆する。今回得られた知見は、モルヒネの慢性投与がT細胞の機能変化を引き起こすメカニズムを説明する一つの証拠を提供する。 滋賀医大との共同実験により、オピオイドによる血管弛緩反応についても解析を開始している。モルヒネによる血管弛緩反応はこれまでに報告があるが、短時間作用オピオイドであるレミフェンタニルによる血管弛緩反応のメカニズムは未だ解明されていない。今後の検討課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
KORのアミノ末端が切断されたスプライス変異体KOR4の遺伝子をプラスミドに組み込み、培養細胞には発現させようと試みたが、不成功に終わっている。本来、7回膜貫通型のGタンパク共役受容体が6回膜貫通型になった変異体であり、発現することが難しい可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
今回のT細胞系培養細胞のモルヒネによる細胞応答はオピオイド受容体を介さないものであった。以前我々は、オピオイド受容体を介するモルヒネに対するT細胞の細胞応答(p53活性化、DNA損傷)を報告している。T細胞にオピオイド受容体があることは明らかであるが、未だにその全容は解明されていない。残る作業仮説のヘルパーT細胞2型(Th2)にμオピオイド受容体が発現する可能性について検討する予定である。 滋賀医大との共同実験により、レミフェンタニルによる血管弛緩反応機構の解析を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度と同様、試薬、抗体、細胞培養のための培地および血清、プラスチック器具等の消耗物品に大部分の出費をする予定である。 Th2細胞においてMOR1が存在するかどうかを検討するプロジェクトでは、健常ヒト血液提供者に対し謝金が発生する。また、血液からTh2細胞を抽出するキットにも出費をする予定である。
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