研究概要 |
モルヒネによる免疫抑制のメカニズムの一部はT細胞機能の変化によるものと考えられている。一方、T細胞受容体(TCR)が刺激されると、extracellular signal-regulated kinase(ERK)経路およびnuclear factor-κB(NF-κB)経路が活性化され、T細胞の増殖や機能に影響を及ぼすことが知られている。 ヒト末梢血から単離したCD3+T細胞およびヒトT細胞系培養細胞Jurkatを塩酸モルヒネで24時間刺激した後、抗CD3抗体あるいはPMAおよびionomycinによってTCRを活性化すると、モルヒネ前刺激がない場合に比較してERKのリン酸化が増強し、逆にIκBαのリン酸化は減弱することを示した。さらにモルヒネの前刺激により、TCR活性化によるinterleukin-2の遺伝子発現が減少することが明らかになった。これらの変化は、オピオイド受容体拮抗薬のナロキソンで抑制できなかった。CD3+T細胞およびJurkatにはκオピオイド受容体(KOR)遺伝子が存在することをPCRによって明らかにしたが、KOR1の選択的アゴニストU50,488はモルヒネと同様の効果を示さなかった。以上の結果は、T細胞においてモルヒネの前刺激はERK経路の活性化およびNF-κB経路の抑制を引き起こすが、オピオイド受容体を介さないことを示唆する。これらの知見は、モルヒネの慢性投与がT細胞の機能変化を引き起こすメカニズムを説明する一つの証拠を提供する。 オピオイドによる血管平滑筋の反応について解析した。ラット大動脈および腸間膜動脈標本を生理的栄養液中に懸垂し等尺性張力変化を記録した。モルヒネおよびレミフェンタニルといったμオピオイドによって、血管平滑筋が収縮反応を示すことを明らかにした。
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