ミトコンドリアが低酸素に陥ると呼吸鎖が停滞しNADHが蓄積する。NADHは青色光を発する蛍光物質なので、脳表に紫外線を照査すれば、ミトコンドリアのエネルギー産生障害を2次元画像で経時的に観察することが可能である。ミトコンドリアエネルギー産生の変化が脱分極領域拡大に及ぼすリドカインの脳保護効果を明らかにすることを目的に、このシステムを用いてエネルギー産生障害を2次元画像で経時的に観察した。ラットの30cm側方に360nm近紫外腺照射用キセノン光源を設置し、専用CCDカメラで脳表の460nmのNADH蛍光を5秒毎に撮影した。30μm×30μmの分解能で15秒毎にNADH蛍光を計測した。 虚血開始後、高輝度領域は中大脳動脈支配領域周囲を徐々に増大していき、プラトーに達した。観察期間中のすべての時間において高輝度領域はリドカイン群において縮小していた。虚血5分後には高輝度領域はリドカイン群でコントロール群の67%に縮小していた(コントロール群:8083 ± 1917 pixels;リドカイン群:5382 ± 2273 pixels、P = 0.01)。2群間のCBF値に有意差はなかった。虚血24時間後の脳梗塞体積はコントロール群(122.9 ± 31.0mm3)と比較し、リドカイン群(90.4 ± 26.9mm3)で有意に減少していた(P = 0.02)。リドカイン投与にて脱分極したischemic coreに相当するNADH蛍光高輝度領域は縮小し、梗塞体積は減少した。リドカインは再発性脱分極の発生回数を抑制せず、脱分極後の神経細胞障害度には影響を与えなかった。これより、リドカイン投与による脱分極領域の縮小が脳梗塞の体積縮小の主要因であると示唆された。
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