研究課題/領域番号 |
23592261
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
小田 裕 大阪市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 非常勤講師 (70214145)
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キーワード | ブピバカイン / レボブピバカイン / 脂肪乳剤 / 局所麻酔薬 / 中枢神経毒性 / 心毒性 |
研究概要 |
以下に示す実験データの再確認を行った。実験動物として8-9週齢のSprague-Dawley系雄ラットを用いた。実験数日前にケタミン麻酔下で定位脳固定装置に固定し、側座核 (nucleus accumbens) に双極貼合せ電極(ユニークメディカル)を留置、歯科用セメントで固定の後に覚醒させた。実験当日、セボフルラン麻酔下で頸動静脈および大腿静脈にカテーテルを留置後に覚醒させ、ポリコーダを用いて血圧・心拍数の持続測定を行った。循環動態が安定し、血液ガスが正常範囲にあることを確認後にPower Lab (AD instrumentsジャパン) を用いて脳波測定を開始した。生食または脂肪乳剤(Intralipid, フレゼニウス・カービ)を3 ml/kg/minで5分間投与し、投与終了後、ブピバカインまたはレボブピバカインを1 mg/kg/minで持続投与を開始した。脂肪乳剤の投与により血圧・心拍数は変化せず、血液ガスデータにも変化は認められなかった。ブピバカインおよびレボブピバカインの投与に伴い、投与前に較べて平均血圧は有意に上昇、心拍数は有意に低下した。平均血圧が約50%上昇した時点で何れのラットにおいても脳波上で痙攣波が出現し、ほぼ同時にtonic-clonic movement が認められた。さらに投与を続けると血圧・心拍数の低下、心停止を生じた。痙攣発生時および心停止時に採血し、血液ガスおよびブピバカイン、レボブピバカインの血中濃度を測定したところ、脂肪乳剤の投与により、痙攣発生および心停止までのブピバカイン、レボブピバカインの投与量が増加し、痙攣誘発時および心停止時のブピバカイン、レボブピバカインの血中濃度とも、脂肪乳剤を投与しない場合に比べて有意に増加することが明らかになった。以上の結果を原著論文として欧文誌上で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高速液体クロマトグラフ-質量分析装置を用いた、ブピバカイン、レボブピバカインの定量方法がほぼ確立し、全血、血漿ともほぼ同じ方法で定量できることが判明した。またこれらの方法は脂肪乳剤を含んだ血液に対しても応用が可能で、今後の定量に有用である。臨床症例において局所麻酔薬中毒の治療目的で脂肪乳剤を用いる場合は、ラットに比べて体重あたりの投与量がはるかに少いため血液中の脂肪の含量が少なく、同じ方法を用いた局所麻酔薬の定量が可能であることから、本法は臨床への応用範囲も広いと考えられる。 脂肪乳剤の効果については、従来の研究は全て全身麻酔・人工呼吸下での実験動物を用いたものであった。研究代表者は覚醒状態のラットを導入し、心毒性のみならず中枢神経毒性に対する脂肪乳剤の効果を明らかにすることに成功した。すなわち脂肪乳剤 (20% Intralipid) を3 ml/kg/min で5分間投与すると、その後に投与したブピバカイン、レボブピバカインによる痙攣や心停止を生ずる際の総血中濃度(蛋白結合分画と非結合分画の和)が上昇することが明らかになった。なお中枢神経毒性の発現には血液ガスや血液pHが大きな影響を及ぼすため、脂肪乳剤の効果を検討するには血液ガス、特に二酸化炭素分圧を一定に保つことが不可欠である。血液ガスデータを再検討したところ、脂肪乳剤の投与後も呼吸・循環データは投与前とほとんど変化が無いことが明らかになった。これらの結果から、従来の方法・測定条件を用いて中枢神経系に対する局所麻酔薬や脂肪乳剤の効果を適切に検討することが可能であることが判明した。得られた結果は欧文雑誌に投稿、採択された (Oda Y, J Anesth, 2013 Mar 14, Epub ahead of print, PMID: 23494675)。なお、組織中の局所麻酔薬の濃度については今後の検討を必要とする。
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今後の研究の推進方策 |
実験動物として従来同様、8-9週齢のSprague-Dawley系雄ラットを用いる。本動物を用いた実験から、脳波上での痙攣波の出現と実際の全身痙攣の出現がほぼ同時に生ずることが明らかになっている。また血圧測定や薬物の投与に必要なカテーテル類の留置もスムーズに行える点で一連の実験に適していると考えられる。実験は基本的に、ラットを用いた従来の方法を踏襲する。すなわち実験数日前に麻酔下で大脳側座核に双極貼合せ電極を留置、歯科用セメントで固定の後に覚醒させる。実験当日は麻酔下で頸動静脈および大腿静脈にカテーテルを留置した後に覚醒させ、ポリコーダを用いて血圧・心拍数の持続測定を行う。循環動態が安定し、血液ガスが正常範囲にあることを確認後に脳波測定を開始する。 これ以降の局所麻酔薬の投与について、従来は脂肪乳剤または生食の投与後に局所麻酔薬の投与を開始したが、これらを同時に投与、また局所麻酔薬の投与開始後、交感神経活動の亢進による血圧上昇が生じた際に脂肪乳剤の投与を行ない、投与前と同様の効果が認められるかを検討する。また局所麻酔薬の投与速度を0.1 mg/kg/minとし、2時間持続投与することによって定常状態を作成し、投与終了5 - 120分後迄経時的に0.5 mlずつ採血を行い、うちの 0.1 ml を用いて全血中の局所麻酔薬の濃度を求める。残りの0.4 ml は遠心分離の後、血漿を凍結保存し、血漿中の局所麻酔薬の濃度を求める。採血に伴う循環動態の変動を避けるために別のラットから採血を行い、採血量と同量の輸血を行う。脳波はコンピューター内にデジタル保存し、解析は専用ソフトウェアー (BIMUTAS II、キッセイコムテック) を用いてoff-line で行う。脂肪乳剤の有無での局所麻酔薬の血中濃度の変化および脳波の変化を求める。
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次年度の研究費の使用計画 |
従来から局所麻酔薬の定量に高速液体クロマトグラフ-質量分析装置 (4000 QTRAP, ABSciex、大阪市立大学医学部共同研究室に設置) を使用してきたが、検体の分離に用いる高速液体クロマトグラフが老朽化し誤作動の頻度が増えたため、最近新たな装置に入れ替えられた。新たな高速液体クロマトグラフは、より低流量での検体の分離を目的としているため (micropump)、局所麻酔薬の蛋白非結合分画や組織内濃度の変化などの検討に際し、従来の分離用カラム (ODS-120Z, Toso) や移動相 (酢酸アンモニウム/アセトニトリル)、測定条件の使用が困難になる可能性がある。その場合、高速液体クロマトグラフの条件設定の変更のみで測定が可能であれば現有機器の継続使用が可能であるが、測定が困難な場合は、従来の実験方法に適合し、現有の質量分析装置に接続可能な高速液体クロマトグラフを新たに備品として購入する必要が生ずる可能性がある。また薬物動態を解析し、半減期やクリアランス、分布容量等のパラメータ-を求める際には、基本的な線形モデルについては汎用のソフトウェアーで解析可能であるが、持続静注中の血中・組織濃度上昇過程や投与終了後の血中濃度の急激な変化を併せて解析するには、より高性能なソフトウェアー (WinNonlin, Pharsight等) を備品として購入する必要が生ずる可能性がある。その他購入予定物品として、実験動物や薬剤に加え、脳波測定用脳内電極 (ユニークメディカル社製)、血液ガス測定用消耗品 (i-stat analyzer, EC8+, 扶桑薬品) 、実験記録や論文の印刷に必要なプリンターやこれに関する消耗品、その他として学会・論文発表の際に必要となる図表(特にイラスト)の作成や英文チェック、機器のメインテナンス費用、学会参加費用が挙げられる。
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