近年我々は幼若期における麻酔薬(セボフルラン・デスフルラン・イソフルラン)暴露が成長期の記憶障害を起こすことを行動学的・形態学的手法を用いて動物実験で示した。当該年度では幼若期麻酔薬暴露による記憶障害発生メカニズムについて電気生理学的に検証した。 以前より我々はextracellular signal-regulated kinase(ERK)が記憶に及ぼす影響について研究してきた。このERKの阻害薬を幼若期マウスに投与したところ麻酔薬同様の行動学的・形態学的変化が認められた。そのため、幼若期麻酔薬暴露による記憶障害はERKが関与していることが示唆された。まず、ERKが記憶の素過程である海馬LTPに及ぼす影響について電気生理学的に研究した。その結果LTP導入にERKが関与していることが示された。次に幼若期にERK阻害薬に暴露されたマウスを成長させ海馬LTPを観察したところ、暴露マウスでは非暴露マウスに比べてLTPの導入が抑制されることが明らかとなった。形態学的・行動学的・電気生理学的結果から幼若期麻酔薬暴露による記憶障害のメカニズムの一つとして麻酔薬によるERKの抑制が示唆された。
|