手術による海馬のマイクログリアの活性化と炎症性サイトカインの発現および学習・記憶障害に対する拘禁ストレスの影響について老年ラット(18-20ヶ月)で調べた。ラットをストレス+手術群、手術のみ群、ストレスのみ群、コントロール群に分け、ストレスのみ群は円筒チューブに2時間の拘禁を、手術のみ群は開腹手術を、ストレス+手術群は2時間の拘禁ストレスの24時間後に開腹手術を施した。手術(またはストレス)の24時間後、4日後、14日後にY-mazeを行い、脳を採取。24時間後の海馬のIL-1βの蛍光免疫染色を行い観察するとともに、NeuN、CD11b、GFAPとの二重染色を行った。spontaneous alterationは、4日後、14日後ともストレス+手術群と手術のみ群が他の群に比べて有意に低下した。14日後においてはストレス+手術群が他の群に比べて有意に低下した。24時間後の海馬の蛍光免疫染色では、ストレス+手術群と手術のみ群でIL-1βの発現が認められ、二重染色ではNeuNと一致が認められた。本研究により、術前の拘禁ストレスへの暴露が海馬における炎症反応を促進し、術後の高次機能障害を発症する可能性をより高め、その障害をより長期にわたり継続させることが示された。 一方、術後の学習・記憶障害に対するfluoxetine(FXT)の予防効果について老年ラットで調べた。ラットをFXT 10mg/kg投与群、5mg/kg投与群、生食投与群、コントロール群に分け、開腹手術直前にそれぞれの薬剤を投与し、4日後にY-mazeを行い学習・記憶障害を調べた。するとspontaneous alterationは生食投与群と5mg/kg投与群で低下したが、10mg/kg投与群で有意な改善が認められた。これにより、FXTの術前の単回投与が術後の学習・記憶障害の発症を予防することが示唆された。
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