最終年度である25年度は、神経障害性疼痛モデルラットとして坐骨神経損傷モデルを作製し、腰部脊髄後角第II層細胞からのin vivo patch clamp法による電気生理学的記録を行った。坐骨神経損傷モデルラットの後肢をpinch刺激して誘発される興奮性シナプス後電流(EPSC: excitatory postsynaptic current)は、正常ラットで誘起されるEPSCと比べ振幅、頻度ともに増加していた。観察されたEPSCはケタミン少量投与で有意に抑制された。手術側肢と対側肢でのEPSCの抑制度を比較すると、手術側肢のpinch刺激により誘起されるEPSCはケタミン80μgの静脈投与により約30%まで抑制されたのに対して、対側肢のpinch刺激により誘発されるEPSCはケタミン80μgではほとんど抑制されず、240μgの投与でも50%に抑制されたにとどまった。つまり、損傷を受けた神経からの入力に対する後角細胞の反応にはNMDA受容体の関与する可塑的な変化が生じていることが推察された。 平成23年度、24年度は、坐骨神経損傷モデルラットの脊髄後角で後根刺激により得られる脊髄後角第II層細胞のシナプス応答が正常ラットとは異なっていること、この異常なシナプス伝達にNMDA受容体の関与が増大していることを明らかにした。さらに25年度は、神経障害を受けた肢からの入力に対する脊髄後角第II層細胞の神経応答に、NMDA受容体の関与する可塑性変化が存在することを明らかにした点で意義があると考えられた。
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