研究概要 |
罹患期間6ヶ月以上の慢性痛患者24人(35歳~75歳,女性16人,男性8;慢性腰痛13,複合性局所疼痛症候群(CRPS)5,頸部痛2,線維筋痛症1,糖尿病性神経障害性痛1,帯状疱疹後神経痛1,慢性頭痛1)を対象に、24人の年齢、性別が相関する健常被験者を対照群とし、前帯状回におけるGABA濃度、グルタミン酸(Glu)濃度、およびNAA濃度を3T MR装置を用いて測定した。T2強調画像上の前帯状回領域で得られた磁気共鳴スペクトルをLC model、Mega‐Press法を用いて解析した。 またMRS測定時に、同時にVBM(Voxel-based morphometry)を施行した。VBM は3T MRI装置で、SPM8を用いてDARTEL法による解析を行い、各年代89人~118人の健常人で得られた正常値と比較した。 慢性疼痛患者では、健常被験者と比べ、NAA濃度および GABA濃度が有意に低下していた。さらに、NAA濃度が低下するほどGABA濃度が低下する傾向を認めた。一方、グルタミン酸濃度は両群間で有意差がみられなかった。慢性疼痛患者で心理療法を必要とした75%の患者で、1H-MRSで、前帯状回でNAA濃度の低下を認めた。 心理療法を必要とした慢性疼痛患者では、VBMで扁桃体(Amygdala),島,海馬傍回, 吻側前帯状回(BA32)など痛みに伴う情動、認知に関連する領域、眼窩前頭皮質,側坐核(Nac)などドーパミン鎮痛系抑性系に関連する領域で灰白質密度の低下を認めた。 慢性疼痛患者における前帯状回のNAA 濃度およびGABA濃度の低下は、抑制性の神経伝達効率の低下が生じている可能性を意味し、慢性疼痛の病態成立に関与する可能性が示唆された。 1H-MRS,VBMは、慢性痛患者の非侵襲的かつ客観的な評価手段、治療法選択の指標になりえる可能性が示唆された。
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