本年度は、鎮静下にワーキングメモリ課題と痛み刺激を行い、その鎮静レベルによって課題遂行能力が衰退していく過程で、痛み刺激に対する主観的痛み強度の変化を調べる研究を行った。 本研究は本学倫理審査通過後、倫理規定に従い文書によるインフォームドコンセントを行った。薬剤はプロポフォール(P群)またはミダゾラム(M群)をランダムに選択した。鎮静開始前と鎮静後に記憶課題として覚えるべきカテゴリを指示しその判定をさせた10分後、帰室後に、覚えた単語を再認させ得点化し、1週間後に記憶すべき単語のカテゴリ判定で記憶の定着を解析した。鎮静はTarget Control Infusion(TCI)を用い瞬目反射が消失する予測脳内濃度を基準に3/4の濃度で一定にコントロールした。痛みに対する感受性の研究は鎮静開始前と後に温冷痛覚刺激装置(PATHWAY;Medoc)で51℃の熱刺激を右前腕と右下肢にそれぞれ20回ずつ加え10回ごとに主観的痛みを記録した。刺激は1回ずつ部位を平行移動させ慣れや痛覚過敏を防いだ。誘発脳波はMEB9700(日本光電)を用いてCZで取得し、瞬目や体動によるノイズを除外した後、誘発脳波が得られた割合を算出し、鎮静前後で比較した。。統計はJMP10.01で対応のある検定、χ2検定を行い、5%を有意水準とした。 両群の鎮静開始前の鎮静当日の課題成績に有意差はなく、鎮静開始後は有意差を認め、カテゴリ判定の成績(Encoding)を考慮した解析で、10分後と帰室後の課題成績に有意差を認めた(p=0.0015)が薬剤間の差は認めなかった。1週間後のカテゴリ判定で鎮静前の課題について、P群の方がM群より誤答率が高い傾向にあった(p=0.07)。主観的痛み評定の鎮静前後比較は、前腕刺激、足刺激とも有意差を認めなかった。誘発脳波の得られた割合は前腕・足刺激とも鎮静前と鎮静後でp=0.002、p<0.0001で有意差を認めた。いずれも投与薬剤による差は無かった。これらは日本麻酔科学会で発表予定である。
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